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《 地獄到来 》
友達と遊んでいただけだった。公園で逃走中をしていただけだった。私は使われていない遊具を障害物として使って鬼から逃げ続けた。走るのは苦手だけど、鬼に追いかけられた時は撒くのが得意。
「あー、喉渇いた」
「いや、まじでそれな」
一人の男子に続いて、皆がのどが渇いたと言い出す。私は水筒を持っていたけど、皆は持っていないそうだ。喉の渇きには私は関係ないと思っていたからずっと黙って空を眺めていた。
「なあヒカリ、お前家ここからすごい近いんだろ?」
「え、まあ近いけど」
「水ちょっと頂戴」
「え?でもどうやって」
「でけー水筒に水を入れてコップ持ってくれれば皆飲めるし助かる」
男の子の提案に嫌な予感がした。なんどか否定したが皆が手を合わせてねだってきている。このまま否定したら私は最悪な人間になるかもしれない。そう思った。だから私は水くらいなら、と思って家からこっそりと持ち出した。
ー 外で遊んでること自体バレちゃいけないんだから水のこともバレちゃダメだ...
水が入った水筒とコップ四つ持って公園に戻った。早いね!って皆に言われてちょっと嬉しかった。皆の期待に応えられたことを。皆がコップに水を注いで飲んでる時、私はまた空を眺めた。
「今日の空は夕焼けが綺麗になりそうだなぁ」
一人でそう呟いた。少し経つと公園付近から大声が聞こえた。『おい!』と言う声。怒鳴っているようだ。私は友達と皆で談笑したり逃走中をしていて遊んでいた頃だった。
ー 誰か叫んでるなぁ、変なの
軽い気持ちでそんなに気にしてなかった。
「なあ、あの車の中から一人叫んでるぞ」
「え、どれ?」
「あの黒いでけえ車」
「...うわ、本当だ。近所迷惑じゃない?ここらへん住宅街だよ?」
会話が聞こえて気になって車の方に目を向けると、一瞬だけ私に雷が落ちた感じがした。硬直した私を友達が気にかけてきた。
「嘘でしょ...」
「え?ヒカリ大丈夫?」
皆が言っていた黒い大きな車は私の家族の車。ママとパパが乗っていた。パパは車から降りてこっちに向かってきた。ママが後を追ってパパがしようとしていることを止めようとしてるように見えた。
このときの私は逃げたいという気持ちでいっぱい。でもここで逃げたら本当に怒られる。私はその場に立つしかなかった。気づいたらパパが目の前にいた。
「あ、ぱ、パパここでなに...」
「ふざけんな!」
髪の毛を掴まれて思いっきり左右上下に振られる。胸ぐらも掴まれて殴られそうだった。ママがパパの暴走を止めようとしたが結局私は殴られた。少しだけ避けたからそんなに強く殴られた気はしなかった。
「ちょっと何!?離して!」
「お前は受験生だろ!遊んでないで勉強しろ!」
「ずっと勉強してた!遊びたいって言ってたのにダメっていうパパが悪いじゃん!」
「ふざけんな!」
「ちょっと二人共やめなさいよ!」
「ちぇっ」
ママに止められてパパの暴走は収まった。パパはママと一緒に車に戻ってどこかに行った。髪を引っ張られたから、ポニーテールがぐしゃぐしゃになって、頬のあたりがほんのりと赤くなっている。
私はゴムを取って髪を整えて再度結ぶ。パパにこんなに怒られるのはちょっとだけ慣れている。でも、人前でこんなに怒られて、殴られるのは生きていて初めてのことだった。パパとの揉め合いを友達皆が見ていた。それが一番恥ずかしくて嫌だった。
「ヒカリ...大丈夫?」
近所の友達が気にかけてくれた。でも他の子達は違う反応をした。
「何さっきの?ヒカリぶん殴られたよね?w」
「人前で父親に殴られるとかダッサ」
「ヒカリの家族ってそんな感じなんだな〜可愛そぉ〜w」
さっきまで皆で仲良く遊んでいた人たち。近所の友達以外が私をバカにした。それが本当に本当に嫌だった。私は持ってきた水筒と、コップ全部を取って家まで全力ではしった。
家に帰ったらパパとママがいた。でもパパは口を一切聞かなくなった。
ママは何もできなくてごめんねと謝るだけ。
次の日学校に行くと、クラスの半分が私を見てクスクスと笑っていた。噂が流れたんだなってすぐにわかった。私は気にしてないように皆と接した。そのおかげで噂のことで私を見て笑う人なんてあっという間に消えた。
『地獄の到来』友達にバカにされて仲間ハズレにされた経験がその一つ。
二つ目の地獄は一生忘れられないこと。一生心に残るものだった。
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