《 地獄到来 》

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上京してから人生が変わった。私立小学校は公立小学校。家もマンションだけど前より小さい。パパは社長じゃなくなって退職。 マイにも変化はないし、ミナもめんどくさがり屋。パパが社長じゃなくなったのは別にそんなに気にしていなかった。 最近、パパとママの喧嘩が増えてきている。原因を聞いても二人共はぐらかしてばっかりで教えてくれない。だから私は二人が喧嘩しているところを盗み聞きした。二人共、寝室で怒鳴っている。 マイはリビングでお昼寝。ミナは友達の家で遊んでいる。 私はドアに耳を当てて二人の会話を聞いた。 「本当に嫌なんだけど!なんでヒカリを外に遊ばせに行かないのよ!」 「あの子は受験生だ!受験勉強をするべきだ!」 「でも彼女はしたくないって言ってたわよ?聞いてなかったの?」 「聞いてないさ!」 「じゃあ彼女が言ったら貴方はどうするの」 「もちろん受験させるさ!彼女のためだ!」 「あーもう、貴方本当に自分勝手ね」 「はあ?」 「はあ?じゃないわよ」 「お前本当に意味わからないな。俺が自分勝手なところ全部言えよ」 「私が言わないと自分では気付けないようなのね。もういいわ」 「おい待て!クソが!」 「クソで結構」 足音がこっちに向かってきている。ママが部屋から出る。私は自分の部屋に駆け込んでドアに鍵をかけた。二人の会話を思い出して考える。 『ヒカリ』『外で遊ばせない』『受験』私の名前が入っている時点でわかったのは、パパとママの喧嘩の原因は全部私だということを。 「私のせいでパパとママがいつも喧嘩しているんだ」 知りたくなかった現実を知った私は真っ暗なウォークインクローゼットの中で静かに涙を流した。あれからは何もなかった。この日の夜、寝ているときまでは。 やけに廊下が騒がしい。怒鳴り声が聞こえる。またパパとママが喧嘩しているのだろうか。ドアを開けるとママは皿を持ってパパに投げようとしていた。 「...なにしてるの」 「ヒカリ...全部パパが悪いのよ」 「パパが?」 「パパはね会社でミスをして社長じゃなくなって、それはそれで気にしなかったのに。他の女と連絡取って、今度いつ会うか話してたのよ」 「話すぐらいいいだろ!」 「ええ、良いわよ?でも十何人もいつ会うか話してるのはおかしいんじゃないかしら」 「はあ?」 ママによると、パパは浮気をしようとしていたらしい。女の人たちの連絡を消すと一度確認してママが消した後、パパはもう一度消したはずの女の人たちと連絡を取っていた。ママがそれを再度消すとパパが激怒したらしい。 ー ただの夫婦喧嘩でありますように そう願ったのにパパとママは離婚することになった。知的障害のマイを置いていくのは私とパパとミナの負担になるからってママは家を出ないことにした。パパもそれに同意していた。 「ママ、二人で話したい」 パパとミナがいない家の中で私はママと二人きりになった。マイは寝室で寝ている。リビングで私はママと話した。離婚の原因とこれからのことについて。 ママは離婚の原因を教えてくれなかった。なぜなら私はまだ理解できないと思われていたから。ママには、原因を知りたければパパに聞きなさいって言われた。私はそうすることにした。離婚後のこれからについて聞くと、ママは教えてくれた。 ママは家に残る。だからその時教えてもらったママのこれからについてを下に残そう。 * 一、ママは離婚する前と変わらず生活をする 二、私とミナが勉強したり、外で遊びに行けるようにママがいつも通り家事をする 三、離婚してまだパパと同居することになるから、定期的に精神科を受診してトラブルが起きないようにする。 全部で四つある。特に四つ目が私にとって破ってほしくない『これからについて証言』である。 四、何があっても家を出ない。パパと一緒にいるためではなく、子供たちのサポートをするため * ママがこの『これからについて証言』を私に語ってから、離婚しているの?って聞けるぐらい普通の生活が続いてた。 このまま何事もありませんように。私の願いは黒く塗りつぶされた。 何も変わらない学校に行く平日の朝。食卓にはピーナツバターが塗られてるパンと、コーンスープ、少量のサラダがあった。私はそれを美味しそうに頬張った。 歯を磨いて、髪を結んで、着替えて、ママのお手伝いとしてゴミ出しをして、ランドセルに教科書とかを入れて。毎日と同じように学校へ向かう。 この時いつもママは玄関まで送ってくれる。今日も送ってくれた。手を振って、笑顔で。 「ママ、いってきます!」 「いってらっしゃい、勉強頑張ってね」 「うん!」 いつもと同じテンションで話していたことだから、ママの異変には気づかなかった。ミナは私より先に登校しているから私は一人で登校した。ハマっている曲を歌いながらひたすら歩く。 学校に着く。いつも通りに友達と話してじゃれ合って。いつも通りに授業を受けて、給食を食べて遊んで。帰りは莉音と一緒に帰った。 「ヒカリ、また明日ね!」 「うん!また明日!気をつけて帰ってね!」 って手を振りながらマンションのロビーへと入る。郵便ポストを開けて中を確認する。パパ宛に手紙があった。下手に持ち去るとなくなるかもしれないから、規則を守って手紙をもとに戻す。 「ただいまぁ!」 玄関を開けて挨拶をするも、部屋は静か。今朝と雰囲気が全然違うことに気付いた私は玄関にある靴を確認した。 ー ママの靴がない 出かけただけだよねって自分を励ました。ランドセルを部屋に置いて、リビングに行くとダイニングテーブルの上に一通の手紙があった。 『ヒカリへ』 封筒には私の名前が書いてあった。ベージュの封筒の裏にはシーリングスタンプのシールが貼ってあった。綺麗すぎるこの手紙に、私は嫌な予感がした。 誰もいない家の中。私は涙を流した。泣きわめいた。 だけど、静かに。
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