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四天王
「くっそ、まさかこんな風に使われるとは…」
俺は今現在、十数冊の本を両手に、長い廊下と階段を往復していた。
というのも、橘先生に呼ばれた理由は溜まりに溜まった愚痴を聞くだけではなかったらしく。
あの後、やっと泣き止んだ彼に安心してソファで寛いでいればふいに資料の整理で忙しいから新しく入荷した本取りに行ってくれない?と頼まれたのだ。
もちろん、断ることの出来なかった俺はまんまと策略にハマり本の運搬をする事になったのである。
まじで悔しい…!!
しかも本の数が多く、倉庫の中を見た時には「これをひとりでやるのか…」と絶望した。
「誰か助けて…」
「いいよ」
「えっ」
ただの独り言だったつもりが言葉を返され、驚けば積み重ねた本で見えずらかった視界が一気に開ける。
本の一部が消えていった方に目を向ければ、予想外の人物に俺は目を開いた。
「文哉先輩…」
「ん?」
「アッ、やばい。本持ってくれたことに好感度上がってるのにそんな顔で見つめられたら確実に惚れちゃう」
嬉しさを紛らわせるよう、早口にそう言えば彼は彫刻のような顔を緩く綻ばせ笑い声を零した。
それさえ天使のお告げに聞こえてくるのは俺のラブユー先輩フィルターがそうさせているのか。
「橘先生も酷だよね。ひとりに任せるなんて」
「ですよねですよね!流石先輩!大好き!」
「俺も好きだよ」
「おっふ」
まさか両想いが成立するとは思っておらず「両想いなんてそんな恐れ多い…!」「俺、裏親衛隊に殺されない!?」とキョドりにキョドってしまう。
だってだってこんな人と話せるとか前世の俺、蟻すら殺したことないのって感じだし…!!
そう俺がパニクってしまうのも無理はない。
何故なら彼は、この学園で四天王と呼ばれる内のひとり、図書委員長の長野文哉だからである。
四天王とは。
この学園トップの家柄、成績、そして顔面偏差値を誇る4人のことである。
勿論その内の1人はみなさんご存知、生徒会会長の皇絢斗。
ここで生徒会役員とは何が違うの?と首を傾げる人もいるだろうが、実はあの生徒会役員決め。上位者が必ずならないといけないわけではない。
つまり、拒否権というものが存在する。
それを使えば生徒会役員にならずに済み、学園全体を纏めるという面倒臭い役職につかなくても済むわけだ。
…四天王とかいうネーミングセンスがダサいと思うのは皆共通だから、どうか自分の感性を疑わずに受け入れてあげて欲しい。
「ところで文哉先輩はなんでここに?」
「橘先生に用事があったんだけど後輩が本運んでるの見えたから」
「え…俺の事わざわざ手伝いに来てくれたんですか?」
「嬉しい?」
「嬉しいどころの話じゃなくて、もうほんとに」
これはガチ照れ。
久々に他人からの優しさを感じて冗談なく心にきてしまった。
何か返そうとしたが、制御出来ない口角を見られたくなくて微かに顔を俯ける。
我慢しようとすればするほど我慢できなくなるもので遂に両手で抱えていた本を片手に、余った方の手で口を抑えた。
傍から見たら気持ち悪い行動を取ってしまった事に内心焦りつつ、こっそりと横を見れば文哉先輩と目が合う。
見られてたの終わった……!
俺、先輩にキモがられたら生きてけないよ…!!
「凄い顔してる」
「……忘れてください」
「やだ」
「俺もやだ」
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