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謎思考
その後、先輩の裏親衛隊に殺されるかもという恐怖から安らぎを与える木になりきれなかった俺はタイムアップとフリーハグを打ち切り、課題も終わったので帰りますと寮まで全力疾走していた。
最中、背中を守るのに必死で前からの衝撃に備えておらず、急に角から姿を現した何者かと肩がぶつかって身体が約90度回転する。
それで済めば良かったのだが、人間バックステップには慣れていない為「おっとっと」と数歩後ろにケンケンすればバランスを崩し、そのまま尻もちついて床と一体化した。
流石俺。惨めすぎて目も当てられない。
さて、これを目の当たりにした相手はどんな反応をとるかな?
誤魔化しの効かない転び方にヤケクソになり、寝転がったまま視線だけそちらに向ける。
するとまあ、なんとびっくり。
俺の自慢の弟がこちらを見て、瞠目しているではありませんか。
え、まって今の醜態を弟に見られたってこと?
無理無理そんなの生きていけない。
今までかっこいい所しか見せてこなかったのに…。
「兄さん、ここで寝たら流石に風邪引くよ」
「兄さんたまに色の頭の中覗きたくなっちゃう」
手を差し伸べ、本気で心配しているような顔でそう言う色に今度は俺が瞠目して、その手を握る。
そして俺はTPOを弁えずにどこでも寝る奴と実の弟に認識されていること、思い切り弾き飛ばされた俺とは対照的に何のダメージも無く立ったままいる弟にショックを受けた。
作用・反作用の法則って同じ力で働くはずだよね?
「色の成長が早くて俺は涙ぐましいよ…」
「今なら兄さんでも抱えられるよ」
「じゃあ怪我した時は頼もうかな」
この学園じゃ何があるか分からないし、と付け加えれば色は頼られた事が嬉しかったのか機嫌が良さそうに頷いた。
昔はおんぶでさえ俺の重さに耐えきれず崩れ落ちていたのに、今挑戦すれば多分俺がその状況に陥るだろう。当時はそんな事になるなんて夢にも思っていなかった。
「そうだ色」
「ん?」
「クラスに日坂太陽って子いる?」
もし彼と同じクラスで友達になるなんて事があれば弟の安全が完全に保証されない。
生徒会と関わるきっかけになるかもしれないから。
そう思い問かければ、色はまた目を開いて次に眉を寄せた。
「もしかしてもう会ったの?」
「いや話に聞いて」
「同じクラスだけど兄さんは関わらないで」
「そのつもりだけど何で?」
「なんでも」
言い聞かせるように話す色に違和感を抱いて首を傾げる。
俺があまり関わらないでと伝えるつもりが、逆に俺が言われる謎の状況。
クラス以前に学年が違うから大丈夫なのに。
「そういえば色は何でここにいるの?」
「兄さんと別れた後自習室で勉強して、今帰ろうとしてたとこ」
「そうなんだ」
この学園、自習室なんてあったのかと頭の端で思いつつ帰ろうかと足を進める。
それに何も言わずとも自然と着いてくる色。
これが兄弟の絆です、と自慢したくなったが残念なことに周りには誰もおらず俺は落胆した。
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