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鬼決め
今日は新入生歓迎会当日。
全校生徒がアリーナ並の体育館に収められているのを横目に、隣の隆に話し掛ける。
「隆はまた参加しないの」
「ん」
「いいなぁ」
「お前もそうすれば」
「したいけど弟が参加するので」
「でたブラコン」
「どうもどうも」
鼻で笑ってステージに視線を移す隆は去年と同様不参加か、と少し肩を落とす。
隆がいたら安心なのに。
どうにかして彼を参加に持ち込めないかと色々考えていれば、前からきたボランティア委員の人に箱を差し出される。
「この中に腕時計が入ってるので、中身は見ないよう引いてくださいね。黒が鬼、白が人です」
「はーい」
今年は腕時計になったんだ、と思いつつ箱の中に手を入れれば無機物な固いものが手にあたる。
個人的には鬼が楽でいいんだけど。
黒であることを願いながら初めに手に当たった時計のひとつを掴んで手を引き抜いた。
「おっ、やった!」
「黒なので鬼ですね。鬼は右側の方に整列お願いします」
「了解です」
委員の言葉に右へ視線を移せば、既に時計を引いた生徒らが集まっていてその中に弟の姿を探す。
けれど人が多すぎてすぐに諦めた。
「隆は何色?」
「白」
「サボるのに引くんだ」
「サボりじゃない。やる気はあるけど不慮の体調不良によって致し方なく休むのな」
「わっる」
成績は良くないけどこういう悪知恵は働くんだよな、と感心していれば後ろから走ってくる足音。
振り返れば、丁度探していた人物が向かって来ていて俺は驚きつつ笑顔で手を振る。
「色!よく場所分かったな」
「隆さん目立つから」
「あー待ち合わせとかに使われるやつね」
「兄さんどっちだった?」
「鬼!色は?」
「俺も鬼だよ。残念…」
「何で?」
「兄さんとペアになれないから」
そう言えばそんな制度あったな、と思い出す。
あとで説明があるだろうから詳しくは言わないけど、俺は去年、この制度のせいで地獄を見た。
だから俺も弟とペアになれるならそうしたいところだけど…。
「あ、隆と交換すればいいのか」
「あ?」
「出来るの?」
「だってほら、自分のだって証明する方法ないし」
「確かに」
俺の提案に納得した色が隆に視線を向けるので俺も続けて視線を向ける。
キュルキュルとした表情でこちらを見下ろす隆を見上げれば、彼は俺と色を交互に見た後に口を開く。
「無理」
「えっ何で!」
当然了承を得られると思っていたので、本心から驚く。
色に視線をずらせば、俺と同様驚いているだろうという予想は外れ、案の定、と言った表情をしていた。
「俺が隆さんの立場でも同じ返ししてたと思うよ」
「え、なんでなんで」
「兄さんには理解できないかも」
それ以上話す気はないのか、何を聞いても優しい笑顔を向けられるだけで、俺は眉を寄せる。
弟は諦めて、隆ほうに問い掛けようとした時、会場の全ての光がバッと消えた。
『みんなぁー!開会式始めるよぉ!』
マイク越しに間延びした甘ったるい声が耳に伝わった瞬間、四方八方から黄色い歓声が上がる。
それに聞き直すタイミングを失った俺は、空気を読まないステージ上の人物を睨みつけて黄色い歓声を投げ飛ばす。
「トルコアイスみたいな声しやがって!!!」
「うるさい」
「あでっ」
痛いよ隆さん。
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