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開会式
パーではなくグーでぶたれた後頭部を抑えつつ、スポットライトが華やかなステージへ再度目を向ける。
俺が黄色い歓声、もとい野次を飛ばしたのは生徒会会計、小鳥遊昴。
副会長と同様、会長から愚痴を聞かされていたのである程度の性格は理解している。
一言で言うならばチャラ男。
彼とはどうやら同じ学年のようだが、クラスが違うため当たり前のように面識はない。
噂ではニャンニャンを生徒会の仕事と称して授業をサボり、クラス自体にもあまり顔を出さないのだとか。
と、チャラ男くんの自己紹介はここまでにして俺は恐怖に震える手で隆の服の裾を掴む。
「ねえ。会計サマと目が合ってる気がするのは気のせい?」
「気のせいじゃないな」
「うっそ俺なんかしたっけ」
「さっき自分が何したか分かってないのすげぇわ」
「トルコ?トルコアイスって言ったの駄目だった!?地雷!?」
バシバシと仕返しも含め彼の背中を叩いていれば、未だ視線が絡む会計の口が微かに動く。
なんだ、と目を凝らせば口パクをしているようで、真似して見た形のまま口を動かし声を発する。
「お も し ろ い ね?」
「良かったじゃん」
「は?これが良かったって思える脳みそ持って生まれたかった。てかえ、やっば。俺おもしれぇ男認定されてんじゃん」
「喜んでる」
「絶望な。もうちょっと俺の気持ちに寄り添おっか」
「奇行に走るお前のことどうやって理解すればいい?一晩寝る?」
「体交えたら意思疎通も出来るって考えね。おっけ、いっちょやってみっか」
うぃと俺一人で肘同士を合わせ、クラブによくいるダル絡みお兄さんみたいなノリではしゃぐ。
会話まで合わせてくれたなら行動もセットでお願いしたかったんだけど隆くん照れ屋だから仕方ないよね!
なんて茶番を繰り広げていれば、いつの間にか会計の視線は俺から外れていてほっと息を吐く。
本格的に身の危険を感じたからさ。
『じゃあ開会の言葉、かいちょーおねがーい!』
だが安心も束の間。
ラスボスの登場に俺は光のスピードで色の背中に隠れた。
ごめん弟を盾にして…!!!
『今から新入生歓迎会開会式を行う。くれぐれも問題は起こさないように』
「兄さん大丈夫?」
「大丈夫。そのまま俺のこと隠してて」
スカした話し方をするあのブラックリスト殿堂入り会長のどこがいいのか、生徒たちはビブラート入りの悲鳴をハモリまで付けてお届けしている。
それを手で耳をパチパチと拍手をするように抑え遮っていれば、色が不思議そうに首を傾げるので笑顔でグッドサインを見せた。
平凡の癖に、と少し自意識過剰に見える行動かもしれないが、それでも対策はとっておくべきだと思う。
何故ならアレは人の嫌がる姿が大好きな変態野郎だから。
『ああ、それと』
思い出したように呟く会長の声に嫌な予感がして冷や汗が額を伝う。
『材料費は返しに来るように』
その瞬間、隣から物凄く冷たい視線を感じた気がするが、俺は知らない。
4度目のスノーボールアースが来たとしても俺は死ぬまで無視を貫き通してやるんだから。
「死ね」
「それチクチク言葉なの知ってた?」
その後俺の頭にたんこぶがふたつ出来たのはここだけの話。
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