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会長の口から予想外な人物の名前が出てきて目を瞬く。
生徒会役員のひとり、しかも副会長が彼に惚れているというのであれば後々話があるだろうと予測していたがまさか今とは。
こんな行事の最中に聞いてくると言う事は意外と切羽詰まってるのかもしれない。
「もしかして副会長と関係あります?」
「なんだ知ってたのか」
「少しだけ」
「まあ今回はそれと別だが」
「えっそうなんですか?」
「あまり俺を見くびるなよ」
顎に手を当ててキメ顔を晒す彼に、顔が整ってて良かったなと心底思う。
きっと「俺様が生徒の統制を図れないわけないだろ」という自信満々な意味合いだろうが、この人は自身を過大評価する節があるからかなり不安だ。
風紀委員長に迷惑かけることにならないといいけど。
「それじゃあ?」
「お前んとこの」
「…隆ですか?」
「あぁ。日坂の家について色々と調べたが、どうらや八重組との繋がりがあるらしい」
「日坂なんて聞いた事ないですけど」
「たりめーだ。お前があそこに入るずっと前からの繋がりだからな」
それを聞いて、少し胸がザワつく。
俺の知らない話。
隆と同じ学園に入ってきた日坂。
どうも偶然とは思えない。
「まあ組は良好な関係築いてるらしいから問題ないと思うが新歓の間は目を離さない方が良いだろ」
「…分かりました」
「あと、」
妙に話を区切り、マットから立ち上がった会長は俺の座る跳び箱まで近付いてくる。
嫌な予感がして即座に逃げようとしたが、左右両側とも道具に囲われていて前方に出れば会長とぶつかる状況。
やばっ、と跳び箱の奥まで下がって時間を稼ごうと腰を引けば、前から足首を掴まれ体制を崩す。
「うわっ」
「無防備過ぎな」
「え、きも。あ、間違えた気持ち悪い」
「言い方変えても意味変わんねぇよ」
「変えるつもりないんですけど」
「照れ隠しか」
「鳥肌」
証明するために体操服の袖を捲り、上に覆いかぶさっている状態の会長にバッと見せつけたが、これといった反応を見せない会長。
少し気まずくなり、行き場を失った手を下ろせば腕によって隠された会長の顔が現れ、その表情に目を瞬く。
「…え、何に驚いてんですか」
「いや」
視線を送られている先に目を向ければ、そこには手首に付けられた数珠があって、会長が驚いた理由を察した俺はニヤニヤしながら問いかける。
「誕生日プレゼント付けてくれてるのがそんなに嬉しいんですか?」
「あ?自惚れんな」
「照れてやんの!」
「お前自分の状況見えてる?」
途端、両手を会長の片手で拘束され頭上で固定される。
俺はあまりの早業で一切反抗できなかったことに狼狽した。
流石、毎日取っかえ引っ変えでニャンニャンしていると噂の生徒会長様。手馴れている。
内心動揺を隠せない中、誤魔化すために別のところに意識を飛ばしていればそれを引き寄せるかのように会長は俺の腹部をまさぐりだす。
「セ、セクハラで訴えてやるんだから」
「誰が信じると思う?」
「風紀委員長」
その名前を聞いた瞬間表情を変えた会長をみて、「本当に嫌いなんだ」と意外に思う。
選択をミスったという事実は無視したい。
と、いつの間にか服の中に手を忍ばせようとしている会長に、そろそろやばいかもと危機感を持ち始めた頃。
体育館倉庫の扉が開く。
「かいちょーそろそろ始ま…」
聞き覚えのあるその声は、先程までマイクを通して聞こえていたもので。分かりにくかったが、すぐに誰なのか理解する。
生徒会会計だ。
「げぇっ」
「今行く」
「いいのぉ?最後までしてないみたいだけど」
「誘われたから相手してやっただけだ」
その会話を最後に声は聞こえなくなり、無くなった人の気配に俺はそっと息を吐く。
そして咄嗟に会長が被せてきた彼の体操服の上着を顔からとり、跳び箱を降りて腰に巻く。
長袖長ズボンにさらに長袖の体操服を装備している厳重さは目立つだろうが、そこら辺に捨てる訳にも行かないので仕方ない。
「……腹立つ」
さっきのは親衛隊員と思わせることで深入りしてこないから、という理由の発言なのは分かっている。
けれど俺としてはかなりやりきれない気分だ。
そっちが襲ってきたくせに。
俺はどうすることも出来ない苛立ちに歯ぎしりをしながら、会場へと戻って行った。
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