149人が本棚に入れています
本棚に追加
保健委員
会場に戻るとすぐに放送が流れ、人から先に逃げていく様子を眺めていれば、5分後に鬼も追走を初める。
押し寄せる生徒の波に身を任せること約3分。
いつの間にか校舎の中に入っていて、そのまま俺はある場所へと足を向けた。
その間、既に何人かの生徒が捕まえられていくのを横目に手前の角を曲がれば、見えてきた扉に近付いてノックをする。
「失礼しまーす…」
段々と小さくなる声を発しながら、少しだけ扉を開け中を覗く。
すると目が合った数人の生徒の、そのイカつさに俺は肩を震わせた。こわっ。
けれど安心してほしい。
彼らは決してここを溜まり場にしている訳ではなく、はたまた陣地に足を踏み入れた俺に殴ってかかる訳でもない。
「どした怪我?」
「大丈夫?」
そう。
彼らは強面なだけの心優しい保健委員さん達だった。
そしてここもまた保健室である。
「あ、そうじゃなくて人を探しに」
「人?まだあんま来てないけど」
「八重隆って名前なんですけど…いますか?」
「知ってる?」
俺の出した名前に、1番近くにいた保健委員が他の人に問いかけるが彼らの返答は満場一致でノー。
名前を知らないだけかと思い、身振り手振りで特徴を伝えたがやはり首を横に振るだけだった。
真っ先にここに来てると思ったのに。
一体どこいったんだ?
知らないという彼ら相手にここに留まる理由もないので、俺は少しの気まずさを紛らわせながら頭を掻く。
「来てないみたいですね!すいません」
「なんかごめんね?」
「いえいえそんな!じゃあ俺はこれで」
「何かあったらまたおいで」
優しく微笑んで手を振ってくれる彼に俺も手を振り返して、保健室から退出する。
あまり保健室に行く機会がないから、噂だけ聞いて怖がってたけどめちゃくちゃいい人達じゃん。よかった。
また機会があったら話したいな、と思いながら俺はポケットからスマホを取りだし隆に電話をかける。
けれど何回コールしても繋がらないそれに結局俺は諦め、自力で探すかと止まっていた足を動かし始めた。
・・・・・
「みーつけた」
「ぎゃっ!!!」
隆が行きそうな場所、かつ人目のつきにくいコースを辿っていれば、ふいに背後から囁き声が聞こえ思わず飛び跳ねる。
普段ならこんなに驚かないはずだけど、相手が相手なだけに警戒心MAXなのだ。
そんな声が間近に聞こえて驚かないほうが無理ある。
「ちかちゃん猫みたい」
「ハハ、ありがとうございます」
「猫、嬉しいの?」
「世間一般的に考えたらそうかなと」
「じゃあ俺がネコにしたげるね」
「それはちょっと意味合い変わってくるかなー」
何かを揉むように指先を曲げ、こちらに近づいてくる彼に口角を引き攣らせながら少しづつ後退していく。
この人も生徒会長同様ブラックリスト殿堂入りしているので極力関わりたくないんだけど、何せ急に現れるものだから避けようがない。
そんな神出鬼没な彼の名前は塩谷恭。
去年の新歓で俺とペアになった先輩、張本人である。
最初のコメントを投稿しよう!