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ももりん
「何で逃げるの?」
「逆に逃げられる理由に心当たりは」
「ないに決まってんじゃん」
「有罪!!接触禁止令発動!」
「バリアー」
小学校低学年にあった特有のルールで俺が放った令を防ぎ、抱きついてきた先輩の腕から出ようと必死にもがく。
けれど俺より体格の大きい彼を振り払うのは不可能に近く、早々に諦めて体の力を抜いた。
「俺ももりんじゃないのに…」
「知ってるよ?」
「じゃあ代わりにしないで貰っていいですか?」
「無理ー。だって似てるんだもん」
そう言って先輩はさらに腕の力を強め、首筋に顔を埋める。
接触しているのに時計から音が出ないということは、先輩も俺と同じ鬼なのか。
これでペアになっていたら俺、マジで泣いてたよ。
そして話に出てきたももりんとは、とあるゲームに出てくる女キャラクター?のあだ名らしい。
見せてもらったことはないけど先輩がそう言っていた。
なんでも俺に物凄く似ているのだとか。
だから去年、散々な目に…。
黒歴史を晒したくはないから言わないけど。
「ねぇまたあれしてよー」
「無理です。ほんとに無理」
「可愛かったよ?」
「可愛いかどうかじゃなくて、俺のプライドと羞恥心のためです」
何をしても離れない先輩をそのまま引き摺りながら歩いていれば、周りに人集りが出来ていることに気付く。
そう言えばこの人も四天王の1人だっけ…。
まだ周りが鬼ばかりだから良いものの、人まで来だしたら意図せずペアになってしまう可能性が高い。
だからどうにかしてこの人を引き離すべきなんだけど。
「塩谷先輩、ペアになりたい人とかいないんですか?」
「ちかちゃん」
「俺以外で」
「えぇー。いないよ」
すぐに否定した先輩だったが、ふいに何かを思い出したように「あ」とこぼす。
「そういえば最近面白い子にあった」
「じゃあその人のとこへどうぞ!」
「嫉妬してる?」
「喜んで見送りますよ」
「ちかちゃんのいじわるー!」
俺が好きなの分かってるくせにさ、と頬を膨らませ駄々を捏ねる彼を無視し、物理的に重い体を前に進める。
先輩が好きなのは俺じゃなくてももりんでしょうが。
無関係な俺を巻き込まないでくれ、と思いながら2階に上がろうと次の角を曲がった。
と、その時。
何をしても離れなかった先輩が急に腕の拘束を解き、立ち止まるので疑問符を浮かべる。
「噂をすれば」
そう言って口角を上げ、前を見据える彼の視線を辿れば、そこにはずっと探していた人物がいて俺は「あ!」と言いながら手を挙げた。
「りゅう…」
けれど、その横にもう1人生徒がいることに気付いて俺は慌てて口を噤む。
なっ、なんだあのマリモ頭は……!!?
隆と腕組んでるし何これ密会ですか!?
予想しなかった光景に衝撃を受けている俺を見て、塩谷先輩は笑いながら俺の肩を叩く。
「あれが面白いって言った子だよ」
「み、見た目は確かに面白いですね」
「名前は太陽って言ってたかな?」
「え」
その瞬間、会長の言葉を思い出した俺は再び2人に視線を送る。
日坂の表情はマリモ頭によって良く見えないが、隆は滅多に見せない笑顔を晒していて、何とも言えない感情と焦燥にただ瞠目することしか出来なかった。
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