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玲瓏学園
「色、見てこれ」
「わぁタッチパネルなんだ」
「料理はウエイターさんが運んでくれるんだよ!」
「なんでお前そんなに得意げなの」
だって俺が驚いたこと共有したいじゃん、弟に。
そんでもって自分の知識を自慢したいじゃん、弟に。
口を挟んできた隆に唇を尖らせれば、色は気にせずキラキラとした目で続きを促してくる。
ほら見てよ、この目。
兄ちゃんこの目見るために生きてるようなもんだからさ。
やめらんないよなーと何気なく周りに目を移せば、俺たちが兄弟だと知っているらしいクラスメイトと目が合い、微笑ましそうに笑われた。
隆のように蔑まれるのは勿論嫌だけど、これはこれでなんか……恥ずかしい…。
急に黙り込んだ俺に色が首を傾げる。
それを横目に隆は慣れた手つきでタッチパネルを操作し、注文を終えたのか俺に渡してきた。
「色なに食べる?」
「兄さんのおすすめ」
「可愛いヤツめ」
健気な弟の頭をワシワシと撫でながら、片手でカツカレーを2個注文する。
来てからのお楽しみ、とカツカレー如きでとは思うが色に目配せをすれば彼は満面の笑みで「うん」と頷いた。
ほんと可愛い。
こんなに可愛かったら襲われちゃうよ。
この学園特有の風潮が頭をよぎり、大事な弟がそういう状況に1度でも陥ってしまうのではないかと、手に汗握る。
というのも、俺たちが現在通っているここ、玲瓏学園は完全寮生の男子校だ。
それに加え小、中、高、大と規模の大きな一貫校である。
小学校まではまだ良しとしよう。
ただ思春期に突入する中学生が周りに男しかいない、かつ女性のいる街に出るには厳しい手続きが必要でほぼ外出不可能な環境に閉じ込められるとどうなるか。
大半が疑念を抱き始める。
その疑念を抱いたまま、志高く高校生へ。
そこで、中学までは我慢していたものが爆発する。
考えてみろ。
中学を終えて解放されると思ってもまだ高校、大学と5~7年ほど再び閉鎖された学園で過ごさなければならないのだ。
青春の大部分である恋愛を謳歌出来ない。
それは男としてかなり効くのだろう。
だから、女性を好きになることを諦めた生徒が男同士の恋愛に発展し出す。
まあここまでは納得出来る。
だがいつからか、生徒は顔の整った奴らを崇拝するようになったのだ。
それが「抱かれたい・抱きたいランキング」などというふざけた投票で生徒会役員が選ばれる理由である。
上には生徒から人気のある人を、という考え。
でもそうなると、しっかり取り締まってくれる人がいなくなるわけで、瞬く間に強姦やレイプなどが多発した。
それに対抗すべく学園が立ち上げたのが「風紀委員会」。
彼らは生徒会とは違い、正式な選挙で選ばれたものを委員長にするようになっている。
次期委員長は、前期委員長の指名によって輩出。
ただ学園の規模が広大なだけに、全てを取り締まるのは不可能に近く、毎日知らないところで誰かの処女が奪われているのだとか…。
てなわけなので、顔のよろしい俺の弟は強姦の対象にされる可能性が高く、一緒に学園生活を送れることを手放しに喜べない状況なのである。
だから「ここには来るな」って言ったのに「大丈夫」の一点張りで…。
押しに弱い俺の落ち度でもあるんだけどさ。
と、色々考え込んでいればウエイターさんが料理を運んでくれていた。
「ありがとうございます」と言えば、弟も見習うように続き、爽やかな笑みを浮かべたウエイターさんはお辞儀してからその場を去る。
弟を見れば、カツカレーを嬉しそうに眺めていてホッとしつつ「いただきます」とそれを口に運ぶ。
うん、うまい。
「丁度カレー食べたかったんだ」
「ふふん、分かってたよ」
「流石兄さん!」
「おい色。コイツの鼻を伸ばすな」
隣に座った隆が俺の鼻を摘みながらそんな事を言ってくるので、彼が頼んだチキンドリアにスプーンをぶっ刺し遠慮なく頬張った。
うっま、今度これ頼もうかな。
なんて思案していると、隣から邪悪なオーラが…。
気にしない。これは気にしたら負けだ。
気付いていないフリをしてカレーをすくい、黙々と食べ進める。
終始、オーラは封印されることなく俺に向けられ、何度かむせ返ったが色が水を渡してくる度に心が和んだ。
やっぱあるべきは弟なんだなぁ…。
「っい!!!」
「帰ったら覚えてろよ」
急に太ももをつねられたと思ったら、耳元で俺にしか聞こえない音量の囁きをする隆。
怒っている、というよりは甘い声音にゾワ、と鳥肌が立つ。
ああ、これあれだ。
俺の処女がグッバイされるのかもしれない。
密かに心の中で手を合わせる俺だった。
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