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嫌悪
「誰。そいつ」
「あ?」
開口一番、俺の後をつけていた会長を見てそう口にする色。
流石俺の弟と言うべきか。
命知らずな綱渡り人生を歩むのは親譲りらしい。
「ストーカー」
「は?」
「お前こそ誰だよ。俺様を知らねぇのか?」
「一人称俺様はキツイ」
色の背中に隠されるよう腕を引かれたあと見上げれば、バチバチと会長VSが繰り広げられていて、野次を飛ばせば色に抑えられる顔。
兄さんの扱いが雑なんでねーの!
「あんなの見たら穢れちゃう」
「なるほど確かに」
「おい納得すんな。俺は聖水だ」
「童貞捨ててるアンタが聖水になれると思うなよ!」
「そうだ。兄さんが真の聖水だ」
「まって色。俺が童貞なの言いふらさないで」
まさかの戦犯発言に弟の口を覆えば、彼はじゃれていると思ったのか手の中で嬉しそうに笑い声をもらす。
や、じゃれてないよ。こっちかなり必死。
「ふーん、童貞か。処女は?」
「デリカシーは一人旅?俺連れ戻すからそこ動くな」
「まじで敬語消えてんじゃん」
「今尊敬マイナスだからね。敬語が好きなら敬われる行動して」
「つかそれ弟?」
「そうだよ。やらないから」
「いらねーよ。俺もやらねぇよ?」
「いらねーよ」
うちに粗大ゴミの置き場なんてないので、と手のひらを見せ制止する。
はぁ、こんな時間かけるつもりなかったのに。
隆が今頃飢え死にしてないか心配だ。
「色、ちょっとスーパー寄っていい?」
「夕飯作るの?手伝う」
「これだよこれ!俺が求めていた良心は!!」
暫く触れなかった人の優しさに、思わず涙。
ああ、俺はこの日のために生きていたんだね!
早速行こうと歩みを進めれば、後ろから聞こえてくる足音に再びため息をついて振り返る。
「ほんとにいつまで着いてくるんすか」
「腹減った」
「ああそう。食堂は突き当たり右ですよ」
「材料費出してやんよ」
「ワーイ会長サマはオムライスでいい?」
「現金なヤツだな」
呆れたように鼻で笑ってこちらを見てくる彼から視線を逸らし、気にせず足を進める。
まあ1人増えたところで大して変わらないし、何より食費が浮くのはいい事だ。
未だにストーカーと信じているらしい色が会長を延々と睨んでいたが、俺が昔の知人だと説明すれば渋々目線を弱めてくれる。
そんな事があって、疲れていた俺は気付かなかった。
自分のどうしようもない落ち度に。
・・・・・
「なんでソイツいんの」
「あぁぁぁぁ」
思わず漏れた声に色が目を開くが、俺は気にせず頭を抱える。
忘れてた……!!!
というのも、隆は会長の事が大嫌いなのだ。
超が着くほどに。
風紀にも嫌われ、隆にも嫌われ、顔面以外に取り柄のないこの人は一体前世に何を犯したんだ、と問い詰めたくなるところだがこれは完全に俺のミスである。
何故これほどまで隆が嫌っているのかはよく分からないが、初めて会った時からもう「ここ南極だっけ?」ってほどにブリザードが吹いていて。
スノーボールアース到来かと思うほどに身の危険を感じた。
そして再び全球凍結の危機!!
何とも思っていないであろう会長は平然としているが、隆。隆の顔が自主規制かけたいくらい歪んでる。
いや本当にごめん。俺どうしたらいい?切腹かな。
「おい凡」
「はい!!すいません切腹します!!」
「やめろ汚い」
「はい!!」
「で、理由」
「えっと、そのですね、材料費という甘い誘惑に誘われて夕飯を献上することに…」
「しねよ」
「やっぱり切腹コースですか!!」
「水用意しろ」
「ウワッ1番苦しいヤツ」
これ絶対ドラマとかでよく見る水に頭突っ込ませてモガガ、ってなるやつじゃん。
見てるだけでも酸欠なるのに。
「兄さん」
「色……!!」
「骨は拾うよ」
「終わった」
震える肩を誰かに抱かれたと思えば、色が優しい声で呼ぶので「希望の光…!」と顔を上げれば急に崖から突き落とされる。
これが飴と鞭ってやつ…?俺を弄んだってこと…?
こうなれば同じ境遇の会長を盾にするしかない、と何やら神妙な顔つきをしている彼に向かって口を開こうとしたが、それより先に会長が声を発した。
「悪い、出る」
「何が?屁とか言ったらKY過ぎて流石に殴りますよ」
「部屋をだ馬鹿。先約思い出した」
「は?はっ?え、なに。あっもしかして逃げる気ですか?だめだめだめ、それ一番だめ。ほんとに」
「にゃんにゃんしに行くんだよ」
「うっわ、アンタの顔でにゃんにゃんとかキッツ…じゃなくて!!ここで会長出てったら俺が成仏できずに毎日耳元で国歌歌い続ける事になりますよ!」
「死ぬ前提かよ。てかずっと俺の傍にいんの?」
「あ、なんかそれ嫌だ凄く。でもじゃあ材料費どうするんですか」
「体で返せ」
「死ね」
「色?心読んでくれるのはありがたいけど命がいくつあっても足りないよ。特に俺の」
「死ね」
「それはどっちに言ったの隆くん!!!」
一見、色の流れで言ったように感じるが、実際隆は俺の方を見ていて、ほぼ俺に投げかけている。
そこまで怒なの。ねぇ。ごめんて。
「あぁじゃあもう出てって下さ…っていないじゃん!!」
くっそバ会長め……!!!(泣)
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