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人間観察
「食堂のより美味しいよ兄さん!」
「え、本当?じゃあシェフになろっかな」
「自惚れんな」
「はいごめんなさい。てか隆くんはいつまでメレンゲみたいに角立ててるの」
「は?」
「ごめん」
兄ちゃんさっきから失言多めだね。
心配そうにこちらを伺う色に大丈夫だよ、と手のひらを見せる。
これが初めてではないけど、こうなった時の隆って面倒臭いんだよなぁと思いながら暖かいオムライスを口に運ぶ。
一方の隆は、もう既に皿の中身を平らげていた。
食に当たらないのは良い事だけど。
「ねえ隆くん?どうやったら機嫌直る?」
「……」
「りゅーうー」
「…ウザイ」
と言いながらも、擦り寄る俺から離れようとしないのは満更でもないからだと知っている。
可愛いヤツめ!
「明日お弁当作ったげるからさ!」
「唐揚げ」
「入れる!」
「甘い」
「卵焼きね!」
「1人で」
「食べる!!あ、待って無理一緒に食べる取り消し」
つい勢いで言った言葉の意味を理解した俺は即座に首を振り、バッテンを作る。
ほんとにぼっち飯だけは無理!!
その必死さが面白かったのか、隆は1度笑い食器を持って立ち上がった。
「弁当に免じて許してやる」
「やたー!!」
「その代わり二度とアイツ連れてくんな」
「はい!!」
兵隊のようにビシッと敬礼すれば、隆は「よし」と言ってキッチンで食器を洗い始める。
それに色の皿と自分の皿を持っていき「ありがと」と言えば、彼は特に返事をするでもなく俺を一瞥してから食器を受け取った。
料理を作った時、食べっぱなしじゃなくこうやって食器洗いをしてくれるところにかなり好感を持ってたり。
結構助かるんだよね。
と思っていれば、色が布巾を持って隆が洗った食器を拭きだすので、俺は思わずスマホのカメラを起動し、並んで家事をする2人を写真に撮った。
「なに」
「可愛くてつい衝動的に…」
「兄さんと撮りたい」
「はっ俺で悪かったな」
「終わったらみんなで撮ろうな」
そしたら後でおじさんにも送ってあげよう。
・・・・・
「奥田はよ」
「お、今日は早いじゃん平野」
翌朝。
席に座りながら前の奥田に挨拶をすれば、彼は少し驚いたような顔で隣にいる隆を一瞬見てから拍手をする。
この前がたまたま遅かっただけなのに何をそんなに感心してるんだ。
「奥田はいつも来るの早いけど何してんの?」
「んー人間観察とか情報収集とか?」
「何それ意外な趣味」
「今はそれが生きがい」
「どういう感じで見てんの?」
想像もしなかった一面に興味が湧き、聞いてみれば「そうだな…」と顎をさすって奥田は席の1番前に座る1人の生徒に視線を移した。
「佐藤?」
「彼は昨日彼氏と別れました」
「え、まじか。仲良かったのに」
「しかし首元をよく見てください」
「んん…?あ、キスマ?」
「正解。でも昨日まではなかった。つまり?」
「セフレか新しい彼氏か…」
「That's Right!」
おお、なるほど。
人様の事情を勝手に想像したり詮索したりするのは失礼かもしれないが、これはかなり楽しいかもしれない。
そんな俺の表情を読み取ってか、奥田は楽しそうに笑って俺の頬をつついた。
「お前素質あると思うわ」
「この素質あったら何か良い事ある?」
「ただの暇つぶし。楽しいってだけですよ」
「ふぅん。まあでも奥田と話すネタが出来るならいいかもね」
このクラスでは隆の次に仲のいい友人だが、交友関係の広い彼からしたら俺は下から数えて何番目、とかだろう。
これからも学園生活は続くんだし、奥田とはもっと仲良くなっておきたい。
そんな意味を込めて言葉を発した訳だが何を間違えたのか、奥田は瞠目して動きを止めてしまった。
「…え、ごめん。おれ間違えた?」
「あ、いや。驚いて?っていうか嬉しくて」
「なんだ良かっ、ブッ!!」
「虫」
ほ、と胸を撫で下ろしたのも束の間、言葉を言い終える前に何かで顔面を叩かれ、それが隆の手だと理解するのに数秒。
顔面にいる虫を追い払うでもなくそのまま潰したのか?と鳥肌が止まらない中、やっと視界がクリアになって1番に目に入ったのは頬を赤く染めて隆を見る奥田だった。
「わり、逃した」
「…いや逃して正解だよ。顔面で潰されなくて良かった」
「虫に同情すんなキモい」
「虫じゃなくて俺への同情ね」
唖然としないまま、叩かれた顔面を両手で抑えつつ指の隙間から再び奥田を覗き見る。
やはり、見間違えではなかったようだ。
奥田は、隆を見て赤面していた。
まじで…?
……確かに人間観察、面白いや。
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