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図書委員
「みんな本読んでねー…」
さーてやってまいりました!
玲瓏学園名物、朝の読書時間!
恒例と言ってもいいほど毎日繰り返される橘先生の、ほぼ独り言のような呼びかけに俺は内心涙ぐんだ。
俺はセンセーの為にちゃんと本読んでるからね!!
そしてさっきから落ち着かない様子の奥田がボソボソと話しかけてくるのを今は右から左に頷きつつ、手元の本にかぶりつく。
するとふいに、本が影で覆われた。
なんだ?と顔を上げれば黒縁メガネのレンズ越しに色素の薄い瞳と目が合い、予想外の人物に俺は驚きながら首を傾げる。
「どしたの橘先生?」
「凡君、昼休み暇かな?」
「昼休みは死んでも欠かせない大事な用事があるので暇じゃないです!」
「じゃあ放課後は?」
「多分空いてます!」
「手伝って欲しい事があるんだけど…」
「図書関係ですか?」
「そう」
「じゃあ放課後に顔出しますね」
にこっ、と笑顔で返せば橘先生は満足気に頷いていつものようなゆったりしたペースで教室から出ていく。
その後ろ姿を見送っていれば、その視界にバッと奥田が入り込んできて思わず仰け反った。
「うわ」
「あの先生と平野が話すとこ初めて見たんだけど何繋がり?」
「何って図書委員繋がりだけど」
「えっ、平野って図書委員なの?」
「よく言われる」
「だって意外。朝読書だって読むフリしてんのに」
「まってまって。何でバレてんの?」
「んー…人間観察の経験で?」
「人間観察つよすぎ」
俺も本格的に始めてみようか、と思いだしたところで、奥田がようやっと元の調子を取り戻している事に気が付く。
その様子が面白くて、堪えきれない笑いを隠そうと俺は本に顔を埋めた。
「えっ、おま、顔ちっさ」
その瞬間、前方からそんな言葉を投げかけられ本から目を出せば何故か奥田含め周辺の人達が俺に視線を向けていて肩が跳ねる。
「へ、俺すか?」
「だってそのサイズの小説に顔が収まるとか有り得なくね?」
「いやいや、奥田一回やってみ?」
「おす」
俺の顔が小さいはずがない、と奥田の顔に小説を押し付ければやはり顔は収まっていた。
「ほら普通じゃん」
「いや平野は自分から見えないから分からないと思うけど、確かに奥田より収まってたよ。なあ?」
というクラスメイトの問い掛けにこちらを見ていた数人が頷く。
じゃあ何で今まで小顔って言われた事がないんだ…!!と思ったが、直ぐに原因が分かって未だ寝ているそれに視線を移す。
「ああ、八重は顔小さいもんな…」
「ずっと一緒にいるから…」
「そういえば弟も顔小さかったよ」
「幼少期からずっと…」
俺の視線を辿った周囲のみんなも理由がわかったらしく、今度は憐れみの目で俺を見詰めてきた。
非常に居た堪れない。
「元気出せよ平野」
「冗談よせよ奥田」
「少なくともここにいる奴らはお前の顔の小ささを認知したからさ」
「顔の小ささ認知されても印象が変わることないのに元気出せっていうのかなり酷って分かる?」
「ごめん俺平凡の気持ち分からない」
「イケメン滅べ」
会話を聞いてさらに眉を下げ、可哀想なものを見る目で見てくる彼らから視線を遮りたくなった俺は頭を抱えて隆と同様机に蹲る。
同情が俺の傷を抉ってるってことに早く気付いて!
「おーい、朝礼始めんぞ」
はっ!救世主…!!
俺は心の中でそっと担任に手を合わせた。
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