出立

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 次の瞬間、桜太郎は腰を浮かせ、禄助に声を出さないよう手をかざし合図をするとそっと立った。  廊下に面した襖に手をかけ、勢いよく開ける。  途端に、階段のほうからなにかが転げ落ちる音が聞こえた。  ふたりは目を見合わせた。音を追って階段を降りたが、階下には誰もいない。 「誰かがあんたの様子を伺ってるんだな」 「さて、誰でしょうね……」  この町に来てから、ずっと誰かの視線は感じていた。その見当もつきはじめてはいたが……。    荷物をまとめた桜太郎は、宿を引き払って禄助と共に外に出た。   「では……気をつけて……」禄助は言いかけて、自分たちが桜太郎を襲おうとしていたのを思い出して苦笑した。 「気をつけます! 色々ありがとう」曇りのない笑顔で桜太郎は言う。  禄助は、去っていく桜太郎の背中を、眩しそうに目を細めて見送った。
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