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通夜には、父の死を聞きつけた者たちが続々と訪れ、色々な人が入れ替わり立ち代わり、父の棺の前で別れの言葉を告げたり泣いたりしている。
訪れる者は、侍が主ではあったが、町人も多く、老若男女問わずさまざまな人が来ていた。父は慕われていたのだな。その光景を眺めながら桜太郎は思った。
ひとりの侍が、父の棺に両手を合わせて、深々と礼をしたあとこちらを向いた。見覚えがある男だった。たしか、父の友人で……名前は岡田だったか、岡山だったか。
その岡田か岡山が桜太郎のところまでやってくる。足をだらしなく投げ出していた桜太郎は慌てて居住まいを正した。
岡某氏が、桜太郎に向かって深く、礼をした。桜太郎も礼を返す。
「此度のことは……」
岡某は、言いながら言葉に詰まる。涙をこらえているようで、小さく息を吐き出している。
「柳太郎殿が亡くなったのは、まことに残念であった」
震える声で、岡某が言う。彼が語るには、父、柳太郎とは幼い頃ともに剣を学んだのだという。
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