通夜の日に

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 そうか、と思い桜太郎は徳利を引く。  岡某は寂しそうな顔をした。  桜太郎があらためて徳利を差し出すと、岡某はすっと猪口を合わせた。  欲しいのならば断わるふりをしなければいいのに。思いながら桜太郎は無言で酒を()ぐ。岡某はそれをあおって一気に飲み干した。  岡某は手で猪口を遊ばせて、物欲しそうにしている。桜太郎はさらに酒を注ぐ。岡某は軽く頭を下げ、杯を受ける。    それから岡某は、とんとんとんと調子よく三杯を空にした。だんだんと呂律が怪しくなってきた岡某は、酒とともにに涙腺が緩まったようで、さっきまで耐えていたのが嘘のようにその顔面は涙と(はなみず)とでじゅるじゅるになっていた。父との思い出話から、次第に岡某自身の青春話の比重が多くなっていて、桜太郎はなぜこの話を聞いているのか、と何度か自分に問いかけた。  ひとしきり語ったあと、洟をすすりながら岡某はなにかを言い淀んだ様子でちらちらと桜太郎のほうを見ている。杯にはまだ酒が残っているのでおかわりの催促ではないようだ。  
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