仇の名は

4/6
前へ
/49ページ
次へ
「私は柳太郎殿を倒すのに、卑怯な手を使いました。そんな形で柳太郎殿を倒した私を、誰が認めてくれるでしょうか……そんなことも、その時の私にはわからなかった」  淀みなく、吾郷が言う。桜太郎はずっと目の前の男を見ている。今は仕える主君もなく、ただその日生きる金だけを稼いで生きている、と、そう語った。   「父は……」桜太郎が口を開く。「父の最期はどうでしたか? 無念そうでしたか……? それとも、自分の最期に納得していましたか?」  吾郷は、目を少し見開くと、その問いに小さく首を振って応えた。  わからない、ということだろうか。  桜太郎は、それを知ってどうしようと思ったのか、自問した。父が無念のうちに斃れたのであれば、その無念を晴らそうとしたのだろうか。それは違う。違うと言える。ただ知りたかったのだ。 「父は、どんな人でしたか?」 「……え」  この問いに、吾郷は意表を突かれたようで戸惑った。 「……高潔な方でした。と、とにかく強くて……」吾郷の目が宙をさ迷う。「私などとは比べものにならぬほど……」 「そうですか」
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加