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「私は柳太郎殿を倒すのに、卑怯な手を使いました。そんな形で柳太郎殿を倒した私を、誰が認めてくれるでしょうか……そんなことも、その時の私にはわからなかった」
淀みなく、吾郷が言う。桜太郎はずっと目の前の男を見ている。今は仕える主君もなく、ただその日生きる金だけを稼いで生きている、と、そう語った。
「父は……」桜太郎が口を開く。「父の最期はどうでしたか? 無念そうでしたか……? それとも、自分の最期に納得していましたか?」
吾郷は、目を少し見開くと、その問いに小さく首を振って応えた。
わからない、ということだろうか。
桜太郎は、それを知ってどうしようと思ったのか、自問した。父が無念のうちに斃れたのであれば、その無念を晴らそうとしたのだろうか。それは違う。違うと言える。ただ知りたかったのだ。
「父は、どんな人でしたか?」
「……え」
この問いに、吾郷は意表を突かれたようで戸惑った。
「……高潔な方でした。と、とにかく強くて……」吾郷の目が宙をさ迷う。「私などとは比べものにならぬほど……」
「そうですか」
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