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通夜の日に
高山桜太郎は武士の家の一人息子である。その日、桜太郎が使いから戻ってくると、母が玄関口まで大股走りで寄ってくる音が聞こえた。桜太郎はそのときにすでに嫌な予感がしていた。
父が死んだ。
震える母の口からそれが語られたとき、衝撃や悲しみより先に、桜太郎は面倒なことになったなと思った。父が死んだのは残念なことだとは思うが、それが自分と地続きのことだとは考えられなかった。
父、高山柳太郎は、何者かと果たし合いをして斬られたのだという。父が何者かと揉めていたというような話は聞いていなかった。恨みを持たれるような男ではない。と、桜太郎には思えたが、なにか桜太郎の知らない事情があったのだろうか。それとも父にも知らない面があったのかもしれない。
その晩に、すぐに父の通夜が執り行われることとなった。母、すずはずっと泣いていた。そんな母と、ぼんやりしている桜太郎の代わりに、集まってきた親族と近所の者たちがてきぱきと式を取り仕切ってくれ、気づくと通夜の用意は整っていた。
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