第三怪異 やじろべえ

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第三怪異 やじろべえ

 社会人二年目のクリスマスまであと一ヶ月。お相手のいない独身男女にとっては、クリスマスを一緒に過ごす相手を見極める最後のチャンスと言っても良いタイミングだ。  そんな時だった。高校時代の同級生の子が自分の勤める会社のすぐ側で働いている事が分かったのだ。SNSで偶然分かった事だ。結局、古くからの知り合いが一番安心する。クラス一の美人だった事もある。会社が近いという事を武器に平日の食事に誘ってみた。  東京のど真ん中だ。お店選びには不自由しなかった。せっかくなので地元野菜を推している小洒落たイタリアンを選んだ。同郷のオーガニック野菜に舌鼓を打てば、地元トークなどで自然と盛り上がるだろうと考えて心躍った。  彼女は一足早く店に到着していた。高校生の頃は、天然でおっとりしていて、ゆるふわ女子といった感じだった。五年経っても相変わらずで、なぜか安心した。  二十代前半という事を考えると童顔の部類だろう。緩く巻いたダークグレーの髪にあどけなさの残る顔立ち。ダッフルコートに身を包むその姿は、全体的に柔らかい雰囲気を醸し出していた。相変わらずのゆるふわ女子だ。人間関係に疲れていた事もあってか、ホッとした。両手に重そうなエコバッグを持っている。買い物帰りだろうか……。 「素敵なお店、選んでくれたんだね」 ゆっくりとした口調は相変わらずだ。コートの下は若干オーバーサイズのニットだった。ふんわりした感じが彼女らしかった。お互いの故郷で生産された無農薬野菜が売りだと話すと、目をキラキラさせて喜んだ。
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