第三怪異 やじろべえ

2/3
前へ
/16ページ
次へ
「わたし、無農薬とかオーガニックとか、ヘルシーな感じの好きなんだ」 そう言って微笑む彼女のほんわかとした空気感に癒やされた。 「ここ、ワインも美味しいんだよ」 そう言うと、彼女の顔が少し曇った。お酒の話は早かったかと後悔する前に彼女は言った。 「わたし、これから仕事だからお酒飲めないんだ……」 そう言っておもむろに鞄から水筒を取り出すと、それに口をつけた。五百ミリリットル近く入る大容量な水筒だ。彼女の小さな手との対比で、余計に大きく見えた。 「多忙なんだね。今日は忙しいところありがとう」 「大丈夫だよ。いつもこんな感じだから」 「そうなんだ。意外とバリバリ働いてるんだね」 「『意外と』って、何それ」 彼女は笑った。 「わたしだって、もう大人。やる時はやるんだから!」 それもそうか、と思った。あれから五年、人は変わるものだ。 「ところで、その水筒、大きいね。何が入ってるの?」 「あっ、これ、気になっちゃう感じ?」 目の前にお冷やがあるのに、それに一切手をつけず、飲食店で水筒の中身を飲んでいるのだ。気にならないはずがない。首を縦に振った。 「飲みたい?」 その瞬間、胸の鼓動が跳ねたのを感じた。こちらが「飲みたい」と言ったらどうするのか。間接キスになるじゃないかと、まるで中学生のように内心慌てた。一瞬の動揺の後、こちらが言葉を発する前に彼女が言った。 「これはねぇ、特別な水!」
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加