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2話:「わざわざ俺のために」
ウタがアツタカを山に誘ったのは、もちろん大好きな人を元気づけたいという気持ちもあるが、ほぼ下心である。
一方でアツタカはウタの恋心に気づいていない。ウタは優しい、夏休みの一日を使ってくれていると考えている。
アツタカは目の前にディスプレイを表示させて指を動かして画面を切り替える。
気になるアニメでも探しているらしい。
これがデートであれば失礼だが、気の置けない関係ゆえにリラックスしていると捉えれば嬉しいかもしれない。
ウタからすれば構ってもらえる方が良いが。
「またアニメ?」
「こう見えて昔ながらのやつが好きだな。振られてからより見るようになった。現実逃避したいのもある」
「そうだよね」
ウタは一瞬俯いた。
(私が隣にいるってことでは逃避したい現実に変わらない。分かっていても傷つくな)
ウタは自分の手で頬を叩いた。
アピール不足で親友みたいな距離感になってしまったことは仕方がない。
せっかくのチャンスなのだ。
いちいち傷ついている場合ではない。
「じゃあ、アニメ見ているから。バスが来たら教えてほしい」
「もちろんよ」
空間上のディスプレイはアツタカのように覗き見がある程度できるものもあるが、少し画質が落ちるものの覗き見防止が工夫されている表示もある。
アツタカはアニメに集中している。
ただ念には念を入れた方がいい。
覗き見防止でディスプレイを表示する。
『好きな人とのデート術、#山』
これを見られるわけにはいかないのだ。
ウタは、はじめは内容を見て感嘆していたが、だんだんアツタカとの妄想に変わっていく。
山ならではの遊び、山の幸の楽しみ方、そして湧水を利用した温泉もあるらしい。
(温泉? 日帰りで温泉入るか分からないけど、でも汗かくし人気ではある。アツタカと別々になっちゃうわ。けど混浴だったら)
ウタは自分のスタイルを見る。
そういえば勝たなければならない、元カノというものを知らない。
勝っているだろうか?
分からない以上他のポイントも稼ぎたいが。
(がっかりされるのはきついわ)
「ウタ、バス来たぞ」
「うん」
アニメは一時停止されていた。
アツタカは面倒見がいい。
結局バスが来るかどうかも見ていてくれたのだ。
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