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4話:「あれ、意外と涼しい?」
山をレジャー施設にした理由の一つに涼しいというのがある。
八月の利点とは?
暇を持て余すほどに長い夏休み、九月と異なりもうすぐ大学が始まるという恐怖も感じない。楽しい。大学は人生の夏休みと呼ばれるが、これは、アルバイト、講義、レポートをこなすほとんどの学生はあまりの忙しさに時が加速してしまうため、結局夏休みの時間の流れのみに対応するためだと言われている。(ウタより)
八月の欠点とは?
圧倒的酷暑。一瞬で干物になる。日傘を差しても日傘が暖房のように思われるくらいには暑い。なお、あまりの暑さに炭酸ジュースとアルコール飲料、アイスクリームは楽園からの贈り物と感じるほど美味しい。だが大学には一部集中講義という夏休みを人質にされる講義もあるので注意されたい。(アツタカより)
「続いて洞窟に行くわ」
ウタはペットボトルのコーラを呷って言う。
自動販売機で一番高いものであるが、四輪バギー射撃ゲームで敗北した以上仕方がない。
アツタカは洞窟探検で水が飲めるということで、ペットボトルの水を買うのは憚られ、缶コーヒーを買った。冷たいタイプではなく温かいタイプを買って涼しげな顔をしているのは、ウタに間違えたと思われるのが恥ずかしいからである。
「そういえば寒いって聞いたことある」
「うんうん」
「なぜ得意げなんだ?」
「ジャーン、もふもふなカーディガンよ!」
「しかもニット。むしろ暑いんじゃ……?」
「ふふふ。甘いわね。騙されたと思って着てみなさい?」
「くっ、その自信」
アツタカはノリノリで苦しそうな演技をする。
ウタは楽しくなって手を腰に当て高笑いをした。
……疲れた。
洞窟に着く。
黄色のカーディガンはお揃いで、新品の下ろしたてであるが。
「違和感?」
「ごめん。サイズ合わない?」
「いや、そうじゃなくて」
アツタカは一度着ると、すぐに脱いでカーディガンを触る。
そして微笑んだ。
「これ新品なんだ。ほら、値札。こういうところで抜けているよね」
「あ、あああああ!!」
ウタは自身のカーディガンを見る。
値札を切っていた。
(私、何しているの)
少し凹んだ。
「ウタ。温度ちょうどいいや」
「でしょ? 水晶大きい、綺麗。写真撮ってもいいって」
「水透き通っていて美しいな。これも撮りたい」
ウタもアツタカもスマホを取り出して写真を撮って楽しんでいた。
普段の操作は空間にディスプレイを表示して操作できるが、写真を撮るときは直接スマホを取り出さなくてはいけない。
「これ、ナイトモードだ。仕方ないか」
光を取り込んで像を作るとき、暗い場所では十分な像を作るために光の取り込み時間を長くしているわけだが。
数秒でも待つのは面倒だ。
「ん? 壁に何かある」
「何? どこの話だよ」
「水のすぐ上の辺り。写真で見るとはっきりしていて。ほら、明るくすると見える」
スマホのライトを付けて壁を照らす。
絵画だった。
神が人々に何かを授けている。
薪を井桁の形に組んで、そこから火が出ている。
ある者は踊り、ある者は膝を着いて祈り、ある者は横になって倒れている。
「山の、神」
「より幻想的だな」
アツタカは写真に収めた。
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