1話:「夏休み、山に行こうか?」

1/1
前へ
/7ページ
次へ

1話:「夏休み、山に行こうか?」

 20××年。  メタバースと現実世界の融合がスマホ端末を中心に広がった。  その結果、空間のディスプレイを表示させて操作することができる。なお、スマホを媒介としている。  人工知能の発達も凄まじい。科学が発展した今、夏休みに人気なスポットはどこだろうか?  目の前にディスプレイを表示させて、家から一歩も出ずに快適な生活をできるようになったからか、どこに住んでいても娯楽の質も量もほとんど変わらない。  その結果、人気なのは自然がある程度ある場所と想像できるかもしれない。  だが実際は少し違う。科学の手が届いていない場所はあまりに不便で楽しめないのだ。  よって、一番人気なのは、発展した科学の恩恵を受けつつ自然も楽しめる山である。  なぜ山か?  それは、一時期人口過疎化によって山の手入れが届かなくなってしまったため、科学の力を投入し、レジャー施設に変えたからである。  科学は大きく発展したものの、エネルギー問題もあって公共交通機関の需要は高いため、山へは主に電車で移動する。  アツタカとウタは幼馴染であった。  アツタカは男性にしては背が低くお腹は緩んでいないが筋肉質でもない。ウタにとっては魅力的だった。  ウタは二重のツリ目でぱっちりしていて、茶髪のロングヘアが良く似合う。  モデルのような体型ではないが女性にしては背が高く、結局のところアツタカと同じくらいである。 「アツタカ、本当に元気ないわね。山でたくさん遊べばあんな女なんて忘れるわよ」  ウタが満員電車で潰れてしまわないように、アツタカは覆うようにして必死に守る。  その姿は完全に壁ドンであるが、しかしここは20××年である。  とはいえ。 (ふあ? どうしてこんなに近いのよ。ほら、ちょっと背伸びしたらキスできるんじゃ。って、アツタカは傷心中なのよ)  アツタカは夏休み入ってすぐに彼女に振られた。  好きな人が振り向いてもらえたという、比較的残酷な、初めから一番になったことはないといった振られ方であった。  アツタカを慰めるために、幼馴染のウタはアツタカを山に誘ったのだが。 (これ、デートだわッ!)  ほぼ下心である。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加