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昔から、影が薄いとよく言われる。
あれ? そこにいたの?
さっきからいた?
えっと、誰…名前、何ていったっけ?
そんな言葉をどれだけ耳にしてきただろう。
でも、だったらどうすればいいのか判らなくて、いてもいなくてもな感じでずっと生きている。
そんな俺だから、こういう時ですら認識されないのだろうか。
学校からの帰り道、突然近くで悲鳴が上がった。
見れば、ナイフを持った男が辺り構わずそれを振り回しながらこっちへ向かって走ってくる。
切られてうずくまる人、刺されて倒れる人…俺の前方にいた人達が軒並み何らかの被害を受け、足が竦んで動けない俺も、犠牲者の一人になるの多と覚悟を決めた瞬間、まるで俺なんていないかのように、男は俺の脇を駆け抜け、後ろの人に襲いかかった。
通り魔にまでいないもの扱いされるのか。
助かったけれど、複雑な心境で立ち尽くしていたら、近くの人が声をかけてきた。
「今の奴、ヤバかったな。俺は咄嗟に消えたけど、あんたは姿を見せたまま回避したな。あれ、どういう技なんだ? …って、あんた、俺らの同類じゃなくてただの人間か? だったらどうして、あいつはアンタをスルーしたんだろう?」
何やら不思議そうにつぶやいていた相手が、俺の目の前からぱっと消えた。
先っの言葉を整頓すると、どうやら今の奴は姿を消す能力を持った化け物か何からしい。
通り魔の意識に全く入らなかったのは、そいつに首を傾げられる程のことなのか。
俺の影の薄さっていったい…。
影が薄い…完
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