幸せとは Ⅳ

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幸せとは Ⅳ

遥はあまり眠れないまま朝になった。 太陽の寝顔を見ていると、こんな時でも幸せな気分になれた。 見つめていると太陽は目覚めた。 「おはよう。」 「おはよう、 遥。」 キスしてから起きた。 少し職場が遠くなってしまったので、いつもより早く出なければならない。 二人で着替えてリビングに行くと、既に由美が朝ごはんの支度を終えていた。 「おはよう。よく眠れた?二人ともご飯ちゃんと食べて行ってね。」 と言って、紅茶を入れてくれた。」 「おはようございます。こんなに早くからありがとうございます。」 と遥が言うと 「わたしにできるのはこれくらいしかないんだから、遠慮しないで。ところで太陽、寝癖がすごいわよ。」 「知ってるよ!後で直すから。。」 とみんなで笑い合いながら朝食を食べた。 太陽は朝食後、支度をして直ぐに家を出て行った。 遥は、洗濯だけは別にしてもらうようにお願いしたので、太陽と自分の分を洗濯して、太陽の部屋のバルコニーに干した。 一人になると、昨日の光景を鮮明に思い出してしまった。 あの時血まみれの太一を見て、このままいなくなってくれればいいと思っていた。 自分なら太陽のことを止められたかもしれないが、止めなかった。ただ眺めていた。 警察に連れて行かれたのは、自分が止めなかったからだ。 口に出すと太陽に怒られるので、絶対に言えないが。 もし太陽に前科がついたら、遥はどう償えばよいのか分からなかった。 たった一日で、戻りかけていた日常が壊れてしまう、また同じことが起きるかもしれない。 こんなことがいつまで続くのだろうか。 不安で胸が張り裂けそうになった。 考えているうちに9時になり、遥はタクシーを呼んで警察署に向かった。 約束の10時少し前に着いて、署内に入ると2階の部屋に案内された。 少し待っていると、女性の警察官が1人部屋に入ってきた。 簡単に挨拶をして、質問が始まった。 遥は、太一が元夫で婚姻中に性暴力を受けていたこと、別居中に襲われたこと、動画が送られてきたことや離婚の経緯、太陽との関係、昨日の朝の状況について話した。 何かあればまた連絡をすると言われ、署を出た時は11時半になっていた。 由美に電話して、終わったのでタクシーで帰ることを伝えた。 タクシーの中で、両親と実里、太陽にLINEした。 母親からは直ぐに電話がかかってきて、荷物を送ったことと、今日はゆっくり休むように言われた。 太陽からは 「お疲れ様。体調はどう?家でゆっくりしてて。」 と、返信がきた。 太陽の実家に着くと、由美がお昼ご飯を用意して待っててくれた。 「疲れたでしょ?ゆっくり食べてね。」 と言って手作りのパスタとサラダをテーブルに置いて、さっき太陽から連絡があったことを話してくれた。 「太陽から電話があって、遥さんをゆっくり休ませてあげるように言われたの。あの子がそんなに心配性だったなんて知らなかったわ。遥さん、太陽が過保護で大変じゃない?」 と遥を見つめながら言った。 「わたしが色々太陽君に頼り過ぎちゃって、申し訳なく思ってます。もう少し自立したいと思う気持ちもあるんですが、前の夫への恐怖もあって、太陽くんに甘えてばかりで。」 「太陽は頼られたいのよ。遥さんは特別みたいだから。」 「太陽君には怒られるから絶対に言えないんですけど、あんなにモテるんだから、わざわざわたしを選ばなくてもよかったんじゃないかと思う時があります。太陽君の気持ちを知っていたのに、別の人と結婚して、暴力を受けて、太陽君を巻き込んで。全部自業自得なんです。前を向いて生きて行かなければと思う反面、自分がこんなに大事にされていい人間なのかって、どうしても思っちゃうんです。」 遥は由美の顔を見られなかった。 「そうよね。前を向こうとしてもこんなことがあると、遥さんの立場だったらそう思うのも突然だと思う。でもね、そういう自分の気持ちを受け入れてあげて。辛い、憎い、苦しい、逃げ出したい、そういう気持ちに蓋をしないで、今自分はそう思ってるんだって受け止めるの。無理に前を向く必要なんてないのよ。太陽と結婚したって、そういう気持ちを無理に消す必要はないと思う。太陽もそれは分かってる。あの子は全部含めて遥さんのことが好きなんだから。知ってるでしょ?」 由美は優しく微笑んだ。 「はい。お義母さん、わたし太陽君を幸せにできるでしょうか?」 遥は涙を堪えて聞いた。 「当たり前でしょ。母親であるわたしが言うんだから間違いないわよ。」 由美は遥の手を握って言った。 「ありがとうございます。」  遥は涙が溢れてきた。 「最近泣いてばかりで、涙が止まらなくて。すみません。」 と言うと、 「泣きたい時は泣くのが一番よ。」 由美はタオルを遥に手渡してくれた。
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