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開放 Ⅳ
「遥さん、来てくれてありがとう。」
母親は深く頭を下げた。
「お久しぶりです。」
「迷惑かと思ったんだけど、あの子が死ぬつもりで書いた遺書を無視することはできなくて。上がってもらえる?」
そう言って、遥たちに中に入るように促した。
ソファに座ると、父親は
「遥さん、先日会社まで太一が行って迷惑かけたことを謝罪したい。本当に申し訳なかった。君が太陽君だね?太陽君の気持ちになってみれば、太一は殴られて当然だ。あの日、警察から連絡があってアイツを迎えに行った。遥さんを怪我をさせたことに動揺してて、取り乱してた。それに殴られた顔で仕事にも行けないだろうから、少し休みを取って家にいさせたんだ。その後落ち着いた頃に引越して、転勤先の店舗では真面目に働いていたそうだ。それが突然、店長さんから無断欠勤で連絡が取れないと連絡があって。部屋に行ってみると遥さん宛ての遺書が置いてあった。その日のうちに警察から連絡があって、こんなことに。」
と、言って項垂れた。
「遥さん、これ。わたしたちは読んでないから、開けて見てもらえるかしら?こんなお願い聞いてもらって、本当に感謝してる。」
そう言って母親は泣き出した。
遥は封筒に入った手紙を取り出して、広げて太陽にも見えるようにして心の中で読んだ。
遥へ
この間は傷付けてしまってごめん。あの男に殴られている時、目を見たら俺を殺そうとしてるんじゃないかと思った。遥はそれくらいあの男に大切にされてるんだと気付いて、その時初めて、これまで自分のしてきたことが間違っていたと思えた。
俺は、遥のことが好きだった。でも、遥に出会う前まで、女性を道具のようにしか見てこなかったから、遥のことをどうやって大切にしていいか分からなかった。最初は分からないなりに頑張ってたけど、気付いたら自分の欲望だけ遥に押し付けて、遥の気持ちを無視して傷付けてた。
遥は何度も気付かせてくれるチャンスをくれたのに、俺は向き合わなかった。
妊娠すればまた遥は俺のところに戻ってきてくれるんじゃないか?そんな思いもあった。
全部俺が間違ってた。遥の、大好きだった可愛い笑顔を奪って、人生をめちゃくちゃにした。
俺を選んでくれたのに、そんな遥の気持ちを全然分かってなかった。
今更気付いても遅いよね。
俺が消えるのは、遥に言われたからじゃない。
これ以上遥のことを苦しめたくないから、自分で自分の人生を終わらせる。
たいようっていうあの男とどうか幸せになって。遥は愛されるべき女性だから。
遥は太陽が読んだのを確認して、母親に渡した。
全部読み終えると、声を上げて泣いた。
「あの子、こんなことしたって罪を償える訳じゃないのに。でも、これ以上遥さんに迷惑をかけるくらいなら、もう目を覚まさなくてもいい。自分で望んだことなんだから。遥さんごめんね。太陽君も。わたしが言えたことではないかもしれないけど、二人で絶対に幸せになって。」
遥は俯いたまま何も言えなかった。
「この手紙は、お母様が持っててください。」
太陽は言った。
「そうさせてもらいます。」
「じゃあ遥、帰ろうか。」
「うん。」
「もうお会いすることはないと思いますが、太一君の分までお元気でいて下さい。」
遥はそう言って、家を後にした。
帰りの車内で、
「この後どうする?ご飯食べてく?」
太陽は聞いた。
「うん。その後指輪見に行こうか。」
「大丈夫?無理しないでいいよ。」
「大丈夫。行こう。」
「オッケー!」
太陽は複雑な表情をしていたが、遥はもう立ち止まりたくなかった。
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