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妊娠 III
遥は妊娠に対する知識がほとんど無かった。
まさか自分が妊娠するなんて思っていなかったので、基礎体温をつけたことも無ければ、最後に生理が来たのがいつだったのかも思い出せなかった。
生理の周期は大体は決まっていたが、遅れることも少なくはなかった。
故に、今自分が妊娠何週なのか見当がつかなかった。
問診票を記入して30分程経った頃に呼ばれた。
診察室に入ったら、70代くらいであろう先生が座っていた。
「問診票、空欄のところあるね。未婚ということは彼氏との赤ちゃんかな?エコーしてみようか。」
下着を脱ぎ診察台に上がって、エコーの画像を見せてくれた。
「妊娠してるね。」
と言い、詳しく説明してくれた。
「最後の生理が曖昧だから、はっきり今何週とは言えないかな。大きさとしては大体6週から7週くらい。まだ心拍が確認できないから2週間後にもう一度受診してください。おめでとう。」
先生は微笑んでくれた。
おめでとうと言われたことに遥は動揺していた。
妊娠はおめでたいことなんだ。
お会計をして帰路に着いた。
帰宅後、待っていた母親に
「やっぱり妊娠してたよ。6週か7週目だった。2週間後にまた受診するように言われた。」
それだけ伝えた。
「お父さんにが帰って来たら妊娠のこと話すからね。これからどうするか、次に病院に行くまでに決めなさい。」
「分かった。」
精一杯言葉を絞り出した。
その後は2階の自室に籠った。
既に悪阻も始まっているのだろうか。少し胃がムカムカして頭痛が酷かった。
太一に電話しようか迷ったが、とてもそんな気分になれずLINEだけしておいた。
「今日病院行って来た。妊娠6週か7週くらいだったよ。まだ心拍が確認できないから2週間後にまた受診することになったから。」
直ぐに返信がきた。
「お疲れ様。病院に行くこと先に言ってくれれば一緒に行ったのに。心細かったよね。体調はどう?会って話したい。いつなら会える。」
遥は体調の悪さもあって、明日から仕事に行くだけでも大変になるだろうと感じていた。
それに、太一と話したところで事態は解決に向かうとも思えなかった。
「ごめん、悪阻が始まってるのかすごく体調が悪くて。仕事は行かなきゃいけないし、ゆっくり今後のことを考えたいからまたこっちから連絡する。」
そうメッセージを送ってその日はスマホの電源を切った。
夜になり父親がノックして部屋に入って来た。
「遥、体調は大丈夫か?お母さんから聞いたぞ。びっくりしたなぁ。お父さんはお母さんと同じ気持ちだ。今産んでも、遥も子供も幸せになれないと思う。ただ、決めるのは遥だし彼の意思もあるよね。次に病院に行くまでゆっくり考えて、身体も辛そうだし無理しないように過ごすんだぞ。言いたいことはそれだけだ。」
「あ、あと。太一君だっけ?一度会わないとな。お母さんは絶対に会わないと言っているから、落ち着いたらお父さんだけでも会わせてくれ。」
そう言って部屋を出て行った。
その日はあまり眠れなかったが、翌日から仕事には行った。
太一とはLINEで当たり障りのないやり取りをしていた。
そして1週間が経った。
昼間に、LINEで明日太一と会う約束をした。
まだ心は決まっていなかったが、太一の現時点での気持ちを確認しておきたかった。
父親が会いたいと言っていることも伝えなければならないと思っていた。
肉体的にも精神的にも辛い1週間で、遥はこれまでに感じたことのないくらい疲れを感じていた。
その日は、珍しくリビングのソファで寝落ちしてしまった。
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