妊娠 Ⅳ

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妊娠 Ⅳ

寝落ちしたまま23時になった頃、母親が遥を起こしに来た。 眠くて朝までこのまま寝ていたかった。 しかし、お腹の赤ちゃんのことも考えて自室で寝なければと思い直し、怠重い身体を起こそうとした。 母親に声をかけられ、身体を半分起こした時だった。お腹に違和感を感じた。 生理痛のもっと強いような痛みが遥を襲った。 下腹部全体がぎゅーっと締め付けられるような痛み。 「痛っ。」 「どうしたの?」 母親はびっくりした様子で遥を支えた。 「下腹部が痛くて。何だろう。すごく痛い。」 次の瞬間。 生理の出血のような感触をはっきり感じた。 「出血したかも。しかも沢山。」 「えぇ!?それは大変。とりあえずトイレに行ってみようか?」 「うん。お腹が痛くて支えてもらっていいかな。」 遥は母親に支えられ、痛みで震えながらトイレに向かった。 トイレに入って恐る恐る確認してみたところ。 かなりの出血をしていた。 情けないことだが、遥はこの時出血の意味をあまりよく分かっていなかった。 「病院に行かないと。遥、電話番号教えて!」 母親は遥の診察券を見て、病院に電話をしてくれた。 「はい、はい、出血して。本人に代わった方がいいんですね?」 「遥、本人と話をしたいって!話せる?」 遥は電話を代わった。相手は看護師さんだった。 前回の診察で先生から言われたことと、出血した経緯を話した。 そしてそのまま病院に行くことになった。 「お父さんを起こしてくる!車を出してもらおう!」 「お父さーん!!起きてー!遥が出血しちゃったの!病院行くから車出して!」 2階から慌てて父親が降りて来た。 続いて実里も起きて来た。 病院へは3人で向かった。 実里は、「頑張って!」と声をかけてくれた。 父親は何も言わずに車を運転をし、後部座席に母親と遥が乗った。 病院に着くと、看護師さんの案内に従って直ぐに診察室に入った。 時間帯が夜間だったせいか前回と違う先生が診察してくれた。 エコーをしながら、 「うーん。これはよくないね。流産しかけてる。この週数にはよくあることなんだけど、自然に赤ちゃんが流れちゃうってことね。これはもうどうしよもないことなんだ。この状態だと、きっと自然に胎嚢が出てくるかな。今日は入院してってね。全部自然に出ちゃえばそれで終わり。ただ、お腹の中に組織の一部が残っちゃうこともあるんだよね。そうすると手術で取り除くしかないから、レバーのような塊が出て来たら教えてね。」 先生は母親にも同じ説明をしてくれた。 遥だけ入院の為病院に残り、両親は一度帰宅した。 眠れないままベッドで何時間か過ごし、夜が明ける頃にトイレで胎嚢が出てきた。 直ぐに看護師さんに報告して、午前中の診察が始まったらまたエコーしてお腹の中の状態を診てもらうことになった。 午前中の診察は最初に受診した時と同じ先生だった。 エコーをしながら、 「そっかぁ。赤ちゃん出て来ちゃったんだね。うーん。まだ組織が少し残っちゃってる。午後空いてるから手術しちゃおうか。麻酔するから痛くないよ。心配しないでね。流産もお母さんのせいじゃないからね。」 遥は涙が出て来た。 何の涙だかは分からなかった。 ただ、流産してしまったことに想像以上にショックを受けていた。 午後は、書類へのサインや手術の立会いの為母親が来てくれた。 全身麻酔での手術だったので、麻酔から目醒めた時は全てが終わっていた。
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