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太一の思い
術後その日のうちに遥は退院した。
朝、会社には体調不良で休むと連絡をしていて、明日は土曜日だったので身体を休めようと考えていた。
太一への連絡は父親からしてくれた。
手術の前に、遥から母親に太一の電話番号を伝えていたのだ。
スマホを見るのは久しぶりのような気がした。
太一からLINEが入っていた。
「遥、ごめんね。こんな時に俺付き添ってあげられなくて。お父さんから連絡もらった時はびっくりした。大事なことだから俺の親にも話はした。お父さんから会いたいと言われたから、遥が落ち着いたら3人で会えるかな。本当にごめん。こんなことになって。」
遥はショックでまだ何も考える気にならなかったが、返信だけはしておいた。
「連絡ありがとう。心配かけてごめん。思ったよりショックを受けてて、少し休みたい。まだ何も考えられなくて。」
「そうだよね、当然だと思う。遥の気持ちが落ち着いた頃に連絡もらえたら嬉しい。本当は今直ぐにでも会いたいけど、遥の気持ちを優先したいから。」
「うん。また連絡する。父にも伝えておくね。」
土日はずっと自室に籠って寝ていた。
麻酔が切れた後から痛みが続いていたので、処方してもらった鎮痛剤を飲んでやり過ごした。
翌週は普通に出社した。
仕事をしている間は現実を忘れられたのでかえってありがたかった。
父親とも相談して、次の日曜日のお昼に3人で会うことに決めた。
かしこまった雰囲気にはしたくなかったので、ファミレスで待ち合わせることにした。
遥たちは普段着で行ったが、太一は普段見たことのないジャケットを着ていた。
太一は緊張していた。
先ず、父親と太一でお互いの自己紹介をした。
その後それぞれランチを注文した後、太一がこう切り出した。
「この度は申し訳ございませんでした。」
父親は笑顔で答えた。
「いえいえ。びっくりはしたけど、太一君だけの責任ではないと思っているよ。赤ちゃんのことは、神様が決めた運命だから誰のせいでもない。遥はショックを受けているけど、もう大人だから父としては見守ることしかできない。わたしが気になるのは一つだけ。これからどうするかってことかな。結局決めるのは遥と太一君なんだけど、今どう思ってるか聞かせてくれるかな?」
「はい。僕も遥ちゃんに妊娠のことを聞いてから会えなかった間、ずっとそのことを考えていました。正直それまで結婚のことはまだ考えていなかったし、父親になることも想像できなかったです。」
太一は続けてこう言った。
「でも、遥ちゃんのお腹に赤ちゃんがいるかと思うと嬉しくもあったんです。だから、直ぐには無理でも出産までにお金を貯めて、結婚できたらと考えていました。その為に、正社員の登用試験を受けることを決心しました。」
遥は驚いたが、父親は安心したようだった。
「そうか。遥とのこと真剣に考えてくれていたんだね。あとは二人でちゃんと話し合いなさい。」
その後は食事をして、父親と太一の雑談で終わった。
遥は何を話していいか分からず、適当に相槌を打ってやり過ごした。
太一にはまた連絡すると伝え、父親と一緒に帰宅した。
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