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珠鳴村には、不思議な力を持つ者がいた。
死者の力を借りて村の平和を願う、魂呼び。
その儀式ができる、たまゆら様。
たまゆら様は、鈴守家の血を引く女性一人に代々継承されていた。
以前のたまゆら様は、鈴守家の血を引いていた明香音の母だった。
十五年前、母が病死したあと、たまゆら様の証は明香音の腕に現れた。
「ちょっと待てよ! こんな時だけ明香音を『たまゆら様』って……」
蒼太郎が明香音の前に立ちはだかった。
普段『明香音ちゃん』と呼んでいた村人は、脅威を前にした途端、『たまゆら様』と呼ぶようになる。
明香音は戸惑いながら、顔をうつむかせた。
背中にしがみ付く静花の手も震えている。
「たまゆら様、お願いします!」
「たまゆら様しか、いないんです!」
「お願い、たまゆら様!」
鈴守家の前に、村中の人が集まってくる。
「みなさん、落ち着いてください」
大蔵が口を開くと、騒めきが一瞬でピタリとやんだ。
しばらくの間、大蔵は考え込むように黙っていた。
深いため息をもらしたあと、鋭い視線を明香音に向けた。
「明香音、今回も……やってくれるか?」
「そんな、親父まで! お前らも分かってるのか? 明香音は、もう……」
「蒼太郎! 口を慎め」
ジロリと睨む大蔵に、蒼太郎が睨み返している。
再び、大蔵の目が明香音に向けられた。
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