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序
風が吹きすさぶ中、一人の罪人が刑場へと引き出されてきた。
痩せこけ、何箇所も深傷を負い、しかも後ろ手に太い荒縄で縛られている。
これでは抵抗などできまいが、それでもなお、武装した役人が幾重にも彼を取り巻いて厳しい顔をしていた。
遠巻きに集まった民衆が、揉み合いつつ、様子を伺っている。
役人が二人がかりで罪人を押さえつけ、強引に跪かせた。それを合図に、他の役人達が位置につく。
高位の役人が、罪人の手前に仁王立ちして腕を組む。
「何か、言い残すことはあるか」
その問いが発せられた途端に風が止んだ。まるで返答を待つかのように、突如降りた静寂。
嗚呼。奴のような屑にすら天は慈悲を与えるのか。
観衆のいくらかは、世の不条理を呪うような、呆れた心境となる。
役人の問いに応じて、罪人が僅かに顔を上げた。
その小さな動きすらも警戒した役人達は、彼の動きを封じている手に力を込める。
ふ、と罪人は息を吐いた。そして。
「ハハハハハハハハハハハハッ!」
いきなり、けたたましい笑いを迸らせた。
「俺を殺すのか! あいつらに続いて、この俺までも! つくづく、この国は腐ってやがる! なあ!?」
叫んだ後でゴホゴホと咳き込む彼を、皆、気味悪く思いながら、また、苛立ちながら眺めていた。
「言いたいことはそれだけか」
先程の問いを発した役人は、眉間に深く皺を刻んでその罪人を見下ろす。
彼はまだ小刻みに肩を震わせており、それが怯えなどから来るものでないのは明白だった。
「只今より、刑を執行する」
気が立って、高位の役人はいくらか粗雑に命を下した。脇に控えていた役人が、無表情に太刀を抜く。
ザンッ。
噴き出す血潮。
胴から離れた部分が、てんっ、と地面を転がる。
その髪を、太刀を納めた役人がむんずと無造作に掴んだ。
掲げられた首は、唇を笑みの形に歪めていた。
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