安枝、イタリアに行く

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「この部屋に置いてあるものが、全部ママの もの」 と言って通された一室には、ベッドのほかに 洋服やら本、といったものが ひとまとめになって置いてあり 「なかなか、片付かナイ」 「うんうん、そうだね、まぁ焦る事はないよ、 マリアはまだ若いんだし、時間はある…」 「このCANの中に、Japan、日本からの letterが入ってた」 マリアが、元は菓子の入っていたらしい缶を 安枝に差し出した 安枝がその缶を開けると、中には手紙やら 古い写真が雑多に入っており 恭子が日本で親しくしていた友人からの ハガキも入っている 安枝は恭子が離婚した事を その友人を通して聞いたのだった 「このなかにnonna(祖母)のアドレス、ママが 書いたメモを見つけた、ママのニッポンの名前、 サトナカ、サトナカヤスエは、ママのママ、 ママは大事なものを、ここにしまってた」 そう言われて、更に缶の中を見ていると ふと見覚えのあるウサギの人形が目に入った その小さい人形を手に取った安枝は 「こんなものを…」 それはまだ恭子が子供の頃に、安枝が着物の 端切れを使って、中に綿を詰め、それらしく 作ったマスコットで とっくに捨てたと思っていたのに マリアは 「あ、ソレは、ママのお守り」 安枝は、驚くのと同時に、後悔の念が湧いてきた あのイタリア男と別れたと聞いたとき 日本に帰って来いと なぜ言ってやらなかったのか こんな昔の、汚れた人形を後生大事に 持ってたなんて いや、それよりも、何よりも 結婚に反対なんかせず 笑って送り出してやればよかった あたしが意地を張ったばっかりに あの子の最期を看取ってやれなかった 小さくなって骨壺に入った我が子 たとえ、男に騙されたんだとしても たとえ、後に別れることになったとしても きっと恭子にも、幸せな時は あったはずだから そしてかわいい孫まで (のこ)してくれたんだから
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