国際郵便

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◇◇◇◇ 茶飲み友達が帰ってしまい 店のシャッターを下ろした安枝は 椅子に腰掛けると、ゴミ箱に目をやる そこには、先程捨てたエアメールが そのままになっていたが 「よっこいしょ」 立ち上がった安枝は、誰にともなく 「詐欺かどうか、一応、開けてみるかね」 と言って、ゴミ箱から封筒を取り出すと ハサミで開封した 中からは便箋、ひらがなの、お世辞にも上手とは言えない文字で書かれた手紙と写真が出てきた 写真は、病室のような風景の中、若い女性と 中年女性が一緒に写っており 「恭子(きょうこ)…」 安枝は、そこに写っているのが 自分の実の娘、月日が経って人相は多少変わってはいるが、間違いない すると隣の若い子は 「…たしか…マリア… マリアか」 マリアとは、恭子のひとり娘で 安枝にとっては孫にあたる 20年ほど前、日本にハガキで知らせてきて以来 様子を窺い知る(うかがいしる)事は無かった マリアは、黒髪に黒目がちな瞳 日本人である安枝から見れば、明らかにハーフだが、全体の雰囲気は恭子に似ていた 「大きくなって、綺麗になって…」 安枝は、それだけで胸にこみ上げるものがあった 元気で暮らしてくれていた そう思ったが、やはり写真を撮られた場所が 気になった 白っぽい部屋、ベッドの脇に点滴のような容器が写っている 「恭子のやつ、入院でもしたのか」 安枝は、老眼鏡を手に取ると 手紙に目を通した
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