安枝、イタリアに行く

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安枝、イタリアに行く

不動産屋の事務所に行くと 眼鏡をかけた、20代後半くらいの女性がいて 「ちょっとさ、成沢さんにイタリア語の翻訳を 頼みたいんだけど」 谷社長が言うと 「イタリア語、ですか?う〜ん、わかりました やってみます」 そう返事をした事務員は、パソコンに向かって 何やらタイピングを始めた そうして手紙とパソコンを交互に見比べて 「これ、書かれている言葉、 イタリア語じゃなくて、英語ですね その方がこっちに伝わり易いと思ったのかも」 ものの10分もしないうちに 「…こんな感じ…ですかね、 あの…良い知らせでは無い…ので 気をしっかり持って下さいね」 事務員は渋い表情でそう言って、プリントアウトした紙を安枝に渡した 安枝はその紙を受け取ると、しばらくの間 目を通していたが、最後まで読み終わると 「恭子、死んだってさ」 谷社長が 「えっ?恭子ちゃん、まだそんな歳じゃないだろ? 何かの間違いじゃないのか?」 そう言って事務員を振り返ったが 彼女が首を横に振るのを見て 「…大丈夫かい?安枝さん」 「…大丈夫だよ、恭子、乳癌だったみたいだね もう葬儀は、あちらで済ませて お骨は、まだそのまま マリアは日本に来たいようだけど…」 そこまで言って、しばし思案顔だった安枝は 「あたしがイタリアに行くか」 「えっ?安枝さんが?ひとりで?大丈夫かい?」 谷社長が驚いたように矢継ぎ早に聞くと 安枝は、気丈にも笑いながら
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