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「あの、どこまで」
「もうすぐ到着するから心配しないで」
人気がなくなってきてかユニが不安そうな顔をした。
突然、立ち止まった白髪の男がユニの右手首を握った状態のままで向かい合う。
「目的地に着きましたよ。お姉さん」
ユニがそろそろと顔を上げる。桜の木々の横に茶屋のような建物があるのを確認し、彼女は胸を撫で下ろした様子。
「もう少しだけ我慢してもらえますか。転売防止のためとかで本物のカップルじゃないと売ってくれない場合もあるらしいんですよ」
耳元に唇を近づけてきた白髪の男にびくつきながらもユニは首を縦に振った。カップルのように手を繋ぐ二人が店内に移動した。
「これが欲しかったものなんですか」
店を出て、深海をモチーフにしたと思われる歯車などが丸見えの無骨なデザインの腕時計をユニは受け取る。
「格好良くないですか……完全防水仕様でもあるんですよ、この腕時計」
「気持ちは分からなくもないですが、わたしの分もあげますよ」
「お礼です。いらなかったら誰かにあげてもらえれば」
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