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訪問
ロイドと軽口を叩き合いながら
仕事をしていると木製のドアが
ノックされた。
依頼は手紙でしか受け付けていないのだが
誰だろうか。
寒くて外に出たくないのだがロイドは記憶のシャボン玉を選んでいるので致し方あるまい。
「はい」
魔女がドアを開けるとそこにいたのは
桜色の髪の美少年。
美しい髪が冷たい風に吹かれ揺れる。
「……エリーっ!」
美少年は目を見開きしばし固まる。
自分と同じ髪色だなんて珍しい。
しかし、エリーとは一体誰のことだろうか?
「あの……どうかしましたか?」
不思議に思って聞くと、
少年は悲しげな顔になった。
「僕のこと、忘れちゃったの?」
「いや、忘れたも何もあなたのこと
知らないんだけど」
「すまんな、少年。
サクラはとある事情があって
記憶がないんだよ」
頭に手を乗せられた感覚がして振り向くと笑みを浮かべたロイドがいた。
「……まさか、お前……」
少年の顔を見た瞬間、ロイドの目が見開かれる。
「とりあえず、入りなさい」
ロイドはかまどに火をつけて少年を招き入れた。
古びた椅子に座ったロイドは
ふぅ、と息をついた。
「温かいハーブティーよ、どうぞ」
魔女がそう言うと同時に透明な
ティーポットの中に入っているハーブティーが
薔薇の花模様のティーカップに注がれた。
少年はそれを見て「懐かしい」とこぼした。
「懐かしい?」
「エリーの魔法を見るのが懐かしいよ。
父さんと、母さんが僕たちを殴った後
エリーはいつも、回復魔法を施してくれた」
少年は魔女に向かって優しく微笑むが魔女には記憶がないのでそんなこと言われたってわからない。
殴った?
もしかして、少年は私の関係者なのだろうか。
だとしたら何か分かるかも。
魔女はそう思い口を開いた。
「ねぇ、あなたは一体誰なの?
私の何を知っているの?」
ロイドは何か言いたげな表情をしていたが
諦めたのか魔女達から目を逸らした。
「僕は……カイト。……君の弟だ。」
少年が真剣な表情で言い、
沈黙が部屋の中を包み込んだ。
「え?」
状況が理解できない。
「サクラ…真実を話す時が来たようだ」
ロイドが意を決したような表情をする。
魔女は胸のざわめきを抑えきれない。
「サクラ、いや君の本当の名前は、エリーなんだ」
「ど、どういうこと?」
セレネがバサッと翼を広げ魔女の肩に乗った。
まるで、これから起こる出来事を知っているかのように。
「意地悪をして申し訳ない。
この記憶があったら
お前は苦しむ。そう思って俺は
お前から記憶を奪ったんだ。
お前さんは記憶を取り戻したいか?
その勇気はあるか?」
ロイドの言葉に胸がさらにざわつく。
心を蝕むのは嫌な予感。
しかし、ここで拒んでは一生記憶を取り戻せないと直感が告げていた。
「ええ、私は記憶を取り戻したい。
だから、ロイドお願い。記憶を返して」
魔女は幼き頃の弱々しい顔とは違う凛々しい顔つきでロイドを見つめた。
「成長したな」
ロイドはふっと笑い、パチンと指を鳴らす。
虹色のシャボン玉が魔女の頭の上に漂ってきてパチンと弾けた。
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