プレシャスプレイス

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「オーナーの加賀です。今日はご足労ありがとうございました。こちらが例の本です」と加賀さんは言い、茶色の紙袋を私に差し出してきた。私は「こちらこそありがとうございます」と言い、受け取った。この紙袋の中に田中先生の届けたい想いが入っているのだ。 「あの。宜しければ休んで行かれたら?せっかく来て下さったのだからサービスしますよ。暑かったでしょうから、アイスコーヒーはどうです?」と加賀さんは言い、窓辺のテーブルに案内してくれた。 「あ。ありがとうございます」と私は言い、勧められるまま、席に着いた。  ほどなくしてアイスコーヒーが運ばれてきた。細くて長い綺麗なグラスだった。一口飲むとキリリっとした苦味が口の中に広がったが、どこか爽やかで、軽い余韻を残して消えていった。うん。美味しい。苦くても飲める。 「ゆっくりしていって頂いて大丈夫ですからね」と加賀さんは言い、カウンターの奥へ戻っていった。  私は再び、店内を見回した。なかなか良いお店だ。窓からは海が見下ろす事が出来た。白い砂浜と青い海のコントラストが美しかった。もしかしたら。みんなで来たら、この風景は心に残らなかったかもしれない。みんなが居なくてある種の繊細さが、あるいは自分自身の素が出ているのかもしれない。だからこそ、様々なものが、私に直に触れていく、そんな気がした。
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