プレシャスプレイス

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「すみません。長居して良いですか?」と私はカウンターに声を掛けた。 「もちろんです。みなさん、長居していかれますから。お腹が空いたらメニューを持って行きますよ」と返事があった。    私は紙袋から本を取り出し、読み始めた。読むのに疲れると海を眺めた。日差しの角度が変わったからだろう。正午の強い日差しが海を宝石箱の様に輝かせていた。  何だかいつもよりずっとずっと時間がゆうるりと流れている気がした。慌ただしく様々な人や物に対応しなければならない日常とは違い、今はただ海を見て、風に吹かれて、目の前の本を読む。これだけ。だから、大事だと思い込んでいるけど、本当は要らないモノ。そんなモノたちから解放されているのかもしれない。  再び店内を見回すと、隅にあるテーブルが目に入った。アクセサリーやマグカップが並べられていた。近づいてよく見ると名刺が置いてあった。どうやらクリエイターの作品らしい。どれもお洒落だ。値札を見ると、私でも手の出る価格だった。どれもお洒落なのだが、あるピアスが異質で私の目を奪った。  それは淡い青色の石が使われているのだが、その石はしっかりと研磨されていないのだ。ゴツゴツとした無骨なカタチと繊細な色。このミスマッチな未完成が、より高度な完成を実現させているように思えた。 「いいな、コレ」と私は思わず呟いた。  その時、ウインドチャイムの音が軽やかに響いた。ドアが開いたのだ。  
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