プレシャスプレイス

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「いらっしゃいませ」と加賀さんの声が聞こえてきた。落ち着いた低い声なのに良く通る、不思議な声だ。 「こんにちは。森本です。新作、出来ました」と女性……いや、まだ女の子って感じの声だ。  私がピアスから目を上げ、ドアの方を見ると予想通り、私と変わらないくらいの年齢の女の子がいた。肩には大きなカバンを掛けていた。そして。口を半開きにして固まっていた。 「ありがとう。じゃあ、早速、並べようかな」と加賀さんが言い、カウンターから姿を見せた。  森本さんと呼ばれた女性は固まったまま、返事もせず、やはりこちらを見ていた。えっと。どうしよ?なんだろ? 「森本さん」と加賀さんが言い、彼女の肩に軽く触れた。その瞬間、森本さんはビシッと姿勢を正し、口を開いた。 「あの、その、ラフストーンのピアスどうです?」と森本さんは言い、私の手の中のピアスを指差した。ゴツゴツした石の事をラフストーンと言うらしい。  私が呆気に取られていたら、加賀さんが口を開いた。 「このシリーズ、売れ行きが良いよ。あのピアス以外は全部、売れたよ」と加賀さんは言った。「素朴さと繊細さが同居してる感じが良いのかな。ドレスアップし過ぎない感じがある」 「えと。なんか良いな、と」と私は短く答えた。ちょっと言葉が足りない気がして、「ゴツゴツ感とキレイな色が合う気がします」と付け加えた。 「ああ。良かったです。この『ラフストーンシリーズ』、自信はあったんですけど、なんだか手抜きに思われそうで。磨いてカタチを整えると味や個性が無くなって石が可哀想だなって、それで、それで……」と森本さんは詰まりながらも自分の想いや届けたいモノを語り始めた。何だか、私の周りに居なかったタイプだ。  クリエイターさん、というとなんだかセンスが良くて、浮世離れしてて、私なんかよりも一段も二段も三段も上の人に思っていた。けど。目の前の森本さんは。不器用に話を続ける彼女は、私と変わらないように見えた。だから、かな? 「新作、見せてもらえますか?」と私は言えた。いつもなら。何も言わずに席に戻っていただろう。 「すいません。では。緊張するう」と森本さんは言い、カバンを開け中身を取り出した。
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