プレシャスプレイス

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「この本、海猫亭に置いていって良いですか?」と私は言った。自然に言葉が出た。「きっと。その方が似合うと思うんです」  加賀さんはどこかほっとしたような表情を浮かべ「分かりました。では、お店の本棚に戻しておきます」と言った。 「あ。後、また読みに来ます。長居しちゃいますけど、良いですか?」 「もちろん。是非、来て下さい。気に入って頂けて嬉しいです」と加賀さんは言い、口角を上げた。  私はこの上無く豊かな気分で帰路に着いた。  どうしてなんだろう。大きな出来事は無かったのに。  ゆうるりとした時間のせいか。機が熟したからか。違う自分に気付けたからか。よく分からない。けど。何だか前よりも世界や自分が好きになった。  帰りの電車の中で、森本さんの名刺を眺めた。彼女の工房のアドレスがあった。次の目的地にしよう。次は何に出会えるだろう。  
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