プレシャスプレイス

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 遊びに行く時は行き先は大体決まっている。  レストランに行けばメニューがある。  さらに。どの高校を受験するかも両親と担任の先生が選択肢を用意してくれた。大学の時だってそうだ。  私が今、暇を持て余しているのは選択肢が見当たらないからだ。  高校時代は良かった。クラスメイトに合わせていれば良かった。空いた時間は勉強していれば良かった。今は違う。勿論、勉強を極めても良い。けど、こんな良い天気の日に部屋に篭って勉強するのはなんか違う。もっと青春真っ只中な事がしたい。  でも、結局は家に着いてしまい、部屋に籠り、机に向かう事になった。そして講義の復習はあっという間に終わった。  恋人でも居れば良いかも。恋人が素敵な選択肢を用意してくれて、私はそれを選ぶ。そしてラプンツェルみたいに私を楽しい所へ連れて行ってくれるのだ。でも。私にはそんな恋人は居ない。それに。根本的な解決にはなってはいない。  私はスマートフォンを手に取った。気の向くまま、あれこれと検索をし、量産されるトレンドを確認した。多分。この中から服を選べば間違いの無い夏のファッションが出来るだろう。私は安心してスマートフォンを置いた。  いやいや。安心しちゃダメだ。自分で何かを考え、行動するのだ。青春を謳歌したいのだ。  私は再びスマートフォンを手に取り、普段とは違う事を検索して見た。例えば、大学の教授の名前。これは面白かった。覇気の無いおじいちゃん先生だと思っていた教授が、時代を切り開いた優秀な研究者だったり、おかしな服装をした変なオヤジ先生が有名な賞を獲っていたりした。うん。月曜日からの講義がなんだか楽しみな気がする。  そして。高校の先生も調べてみた。SNSをやっている先生も何人かいた。卒業生と交流したり、楽しそうに見えた。  ついでに田中先生も調べてみた。私は目を疑った。田中先生は教師とは別の顔を持っていた。勿論、『マシン』じゃない。  小説家だ。
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