プレシャスプレイス

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 田中先生の本を探しはじめて1ヶ月が過ぎた頃、私は選択肢に困らなくなっていた。  講義やサークルに顔を出すにつれて自然と友人が増えていった。気がつけば、スマートフォンで管理しているスケジュールはびっしりと埋まっていた。私の周りには常に誰かがいた。自分が集団の中に溶ける感覚があった。それは強い連帯感と安心感を私にもたらした。でも。何か違う気もした。 「あっ」  思わず声が出てしまった。私の目はスマートフォンから離せなくなった。田中先生の本を持っていると言う人からメッセージが届いたのだ。  正直、あの時はテンションが上がったのだけれど、1ヶ月も経つと薄れてしまった。『絶対に読んでやる!』から、『まあ、見つからなくてもいいや』な気分になっていた。  しかし。こうやって見つかると再びテンションが上がる。メールを見ると郵送してくれるとあった。でも!
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