プレシャスプレイス

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「この電車で良いのよね?」と私は呟いた。目の前の電車とスマートフォンを何度も見比べ、恐る恐る乗り込んだ。  空いている座席に腰かけ、電車内にある路線図を眺める。そして、目的の駅の名前を確認し、軽く息を吐いた。安心する。  田中先生の本の持ち主は本を郵送してくれるとメッセージをくれた。でも。私は断った。自分で取りに行く事にした。旅行とは言えない。軽い遠出。でも。私には結構な冒険だ。  車窓からはビル群が横に滑っていくように見えた。まだ、30分しか経っていないのに随分と遠くに来た気がする。きっと『遠い』とは距離じゃなくて心だ。日常や習慣からどれだけ離れられるかで『遠い』か決まるのだ。多分。あの5月の1人きりの帰り道は『遠い』所だったのだ。  視界が急に暗くなった。トンネルに入ったのだ。トンネルから出たら何が見えるのだろう?ワクワクしてきた。小学生の遠足みたいに。
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