三度目の再会

4/14
前へ
/14ページ
次へ
時折『爪切りはどこだ?』だの『リモコンが見当たらない』だのという父さんからのメールに対応しながらも、念願のローストビーフを堪能する。 「それが目当て…って事か」 そう言って、鼻で笑う顎ひげくん。 確か名前は…麻生(あそう)だっけか? 「ここ、全然予約取れないんだもん…こんな機会(チャンス)逃す訳にはいかないじゃん」 「だから男いるのにも関わらず参加したんだ?」 「……男?」 「携帯、ずっと気にしてんじゃん」 「あぁ、まぁ…男っちゃ男だけど、父親だから」 「へぇー…」 「そろそろ席替えよっか。いつまでも私と喋っててもしょうがないしね」 …かと言って、次に誰を私のお向かいの犠牲者にするべきか。 「良いよ、別にこのままで。牧野さんが食ってるの、見てんのおもしれぇから」 「面白いって何よ?」 「いや何か、同じ物食ってみたくなる…見てると」 「これ、本当に美味しいから‼︎食べてみなよ。はい」 ついさっきしたはずの反省を忘れ、またまたおかん発動の私…。 麻生は特に何も言わず、素直に皿を受け取りローストビーフを食べた。 「…うん、美味い」 そう言って、柔らかい笑顔を見せる。 「料理も最高だけどさ、このテーブルも椅子も照明も…インテリアが全部良いよね。入口のタイルとか見た?」 私はパープルハートの一枚板のテーブルをトントンと叩きながら、このバルの魅力を一気に語った。二種類の電球色が作る柔らかく温かい雰囲気も、優しいアプリコットカラーのタイルも本当に素敵だと思う。 「……どーも」 「え?」 「俺です。ここのプロデュースしたの」 「あ、そうなんだ⁈ごめん。だったらローストビーフが美味しい事なんて当然知ってたよね…」 『食べてみなよ』なんて…恥ずー…。 「いや…今日はいつもより美味いってマジで思ったし」 本心か気遣いなのか表情からは読み取れなかったけれど、麻生の柔らかい笑顔は私の羞恥心を払拭してくれた。 みんなが連絡先を交換している間、麻生は会計がてら店長らしき人と話をしていて、私は父さんからの電話に対応していた。そのまま解散になり、麻生とはそれっきりだった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加