盂蘭盆会(うらぼんえ)

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盂蘭盆会(うらぼんえ)

4年の月日が経ち、中華料理店「万来」はマスコミから取材を受けるほどの人気店となっていた。連日予約で満席となり、日向子は忙しいながらも充実した毎日を送っていた。 正人は小学4年生になり、1年生から習い始めたサッカーで選手に選ばれるほど優秀だ。熱心に聡志が付き合うので、日向子より一緒にいる時間が多いようだ。 「お父さん、試合見に来る?」 「もちろんだ。行くに決まってるだろ 。正人のシュート決めてるとこ見るんだ」 「じゃあ見ててよ。シュート!」 「ゴール!正人選手 1点入れました」 2人でじゃれあう姿を日向子は洗濯物をたたみながら見つめる。恵子の熱心な援助もあり、ますます 成長していく姿が頼もしかった。 芽衣と雄太がほとんど実家に顔を出さなくなってからというもの、毎日が楽しいと感じる。 桜も塾に入れたようで、遊びに来るのは盆か正月のまとまった休みのみだ。 穏やかな生活が仮初めだと分かっていても、ふと夢見てしまう。 このままでいたい 新谷家を壊すために乗り込んだが、予想外に恵子と聡志は優しい人間だった。義理父は寡黙で得体の知れないところがあるので、芽衣は父親似だろうか。 しかし、いつものように正人を迎えに行った夜に恵子から 「日向子さん。8月のお盆に久しぶりにみんなで集まろうと思うのよ。ほら家だと、あれこれ準備があって面倒でしょ。 たまには 羽伸ばしたいし。子ども達もいるし、思い切って旅行しない?」 と、1泊2日で近場の海の見える高級ホテルに泊まる旅行を提案された。家に帰り聡志に話すと、怪訝(けげん)な表情を浮かべる。 「旅行はやめよう。母さんには俺が言っとく」 「でもお義母さん 楽しみにしてるし」 「無理しなくていい」 「夏休みだけど、子ども達がどこにも行けないのはかわいそう。だから行こう?」 「日向子が無理するのもかわいそうだろ!わざわざ あいつらに会う必要はない」 と言って風呂に行ってしまった。 聡志、怒ってる 。悪かったな やっぱり旅行は 断ろう ふてくされて背中を向けて眠る聡志を前より愛しいと思いつつ、日向子は眠りについた。 翌日、土曜日のお店は予約客で繁盛していた。忙しく立ち回っていると、苛立った女性の声が聞こえる。 お店に直接来たの あなたの声を聞くと、今だに虫唾(むしず)が走る 吐き気を(もよお)すほどにね 「お義姉さーん。 久しぶり」 棒読みで「さん」付けする芽衣は真っ赤なバラ色のワンピースを着ていた。トゲのある攻撃的な色が(しゃく)(さわ)る。 「お久しぶりです。ご用件は」 「やぁだぁ~。親戚が訪ねてきたのに冷たすぎない?」 平静を装ってスタッフルームに移動させる。周りに毒を撒き散らす不快な存在感は相変わらずだ。
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