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日向子は義理の母の前に立ち、床に手をついて土下座する。
「……ごめんなさい。
私はお義母さんに嘘をつきました。何でも話して欲しいという優しさを、踏みにじりました。
私は、いえ、正人はっ……渡会 雄太の子どもです」
日向子は頭を床にこすりつける。申し訳なさで顔を上げることができない。それを見て、芽衣が狂ったように笑い出す。
「ほら!ほら、お母さん聞いた?こいつが悪いの。
私の家族をぐちゃぐちゃにしたがん細胞!
お母さん早く怒ってよ!
出〜て〜け 。出〜て〜け!」
雄太も続いて土下座する。
「お義母さんすいません。オレがひなを捨てました。
子どもができて、金がなくて、重くて捨てました。死ぬほど後悔してます。どんな形であれ、責任を取るべきだった!」
泣きじゃくる雄太が恵子に懺悔するが、泣くのは卑怯だと感じる。
罪を犯したのは雄太自身に他ならない。
日向子は耐えるために唇を噛む。乾いた唇からも血が出る。
白いコックコートを着て泣くなんて、まるで白鬼だ
雄太、鬼の色の意味を知ってる?
赤、青、緑、黒、黄色または白色
5色の鬼は五蓋の教え。
醜い煩悩からくるの
白は「心の浮動」
一箇所に定まらず、漂い動くこと。後悔、甘え、我執。自己中のかたまり。悔い改めれば公平な判断ができるようになる。
赤鬼は芽衣。
どこまでも「貪欲」で欲望、渇望をやめない。
青鬼は私。「瞋恚」に支配された。
自分の心に逆らうものを怒り怨む。
悪意に満たされ全てを憎む。己を見つめ直さねば決して福には恵まれない
だからこそ 罰を受ける
目を背けてはならない
「お義母さん。私を殴って下さい!鬼に支配された私は人間ではありません。だからっ」
日向子の訴えを、恵子は意外な形で裏切る。
なんと土下座する雄太の髪を掴んで上を向かせて頬を貼り倒した。雄太は床に倒れこむ。隣で驚く日向子に恵子が声をかける。
「顔をあげなさい」
そして、肩にそっと手が置かれる。シミと火傷のある恵子の手が日向子は好きだ。料理を作って人を喜ばせ続けてきた 尊敬すべき人。
しかし、どうしたらいいか分からず 日向子が座り込んでいると、芽衣が鬼の形相で訴える。
「なんでよ!お母さん 違う!殴るのはこの女の方で……」
しかし最後まで言い終わらぬうちに今度は恵子が芽衣を平手打ちした。不意打ちを食らってよろける芽衣が烈火のごとく怒る。
「お母さん!?あたしは関係ない!」
騒ぎを聞きつけた義理父が、2階から下に降りて来て場が静まり返る。
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