朱殷(しゅあん)の桜

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朱殷(しゅあん)の桜

日向子(ひなこ)は1DKの狭い部屋で、毎日本を開く。 けれど、続きが気になった日はない。 1行も読んだことのない本は、汚れて表紙のカバーは破れかかっている。 背表紙は日に焼けて色が変わってしまった。 過ぎ去った月日の証明をするように朽ちていく本を開くと、日向子は1枚の婚姻届を取り出す。 日付は3月3日 「夫になる人」の欄には赤字で書かれた 渡会雄太(わたらいゆうた)の住所と名前が記されている。 「妻になる人」の欄に黒字で書かれた 古月日向子(こづきひなこ)の住所と名前の上に血のシミが広がっている。 朱殷(しゅあん)色は時間が経っても消えることはない。提出されることのなかった血染めの婚姻届は 忘れられない地獄をいつでも呼び起こす。
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