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しかし 日向子は知っている。
有名大学こそ 卒業した雄太だったが、就職で上手くいかずに家族に馬鹿にされていた事実を。
期待された長男だったが、優秀すぎる一族の中では結果を残せなかった。そのせいもあって逃げるように一人暮らしをしていた雄太は日向子と出会った。
彼のコンプレックスは知っている。
日向子はにこやかに話す。
「すごいですね。立派なご実家で羨ましいです。私なんて、母一人子一人の母子家庭で育ちました。
そして 正人の妊娠中に母が亡くなりました。婚約していた彼も私を捨てて別の人と結婚してしました。天涯孤独になったところを、恵子さん、いえ、お義母さんが助けてくれました」
「そう……ですか」
雄太がかすれ声で返事をすると、恵子が続きを説明する。
「ひなさん、乳飲み子を抱えててね。
ほら 私、しばらく 体調悪い時 あったでしょ。聡志が離婚した後、何をやっても体がしんどくてね。寝ても全然治らなくて。
でも働いてないとあれこれ考えて余計辛かったから、駅から離れた小さなお店の店長やってたのよ」
「そのせいで、あたしが育児で大変な時に全然手伝ってくれなかった」
嫌味を言う芽衣を、恵子は無視して話を続ける。
「昔からのお客さんに支えられてお弁当も売っててね。その頃、ひなさんが毎日 お客さんとして私の作ったお弁当を買ってくれてたの。『美味しい美味しい』っていつも 感想 くれてね。
けど、ある日やっぱり日頃の無理が祟って、私が倒れちゃって。
そしたら看病に来てくれたのよ!赤ちゃんおんぶしてね。大変だったはずなのに、
『赤ちゃんがいるって言ったら、いつもお弁当におまけをつけてくれましたよね。
麻婆豆腐弁当も、味のないお豆腐をつけてくれるサービスが嬉しかったんです。離乳食になり感謝しています』
って言ってくれて。嬉しかったわ。
芽衣にも手伝ってって頼んだけど、家事と育児で忙しいって桜預けてすぐ帰るだけ。都合悪くなったら顔見せなくなって、結局 1回も病院の送り迎えしてくれなかった」
「それは、あたしだって ワンオペ だったし。ゆう君 土日も仕事ばっかだったし」
「ひなさん内職の仕事もしてたわよ。専業主婦のあんたは、遊び歩く暇があったみたいに見えたけどね」
「悪者みたいに言わないで。気分悪い」
芽衣は吐き捨てるように答えてそっぽを向く。
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