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日向子は、今まで何度となく 鏡の前で練習してきた優しい笑顔を披露する。
「いえ、構いません。偽物ではありませんので。
聡志さんは何度も正人の誕生日を祝ってくれました。本物の親子より 絆が深いです。
正人が生まれた日は9月9日です。
実の父親はすでに別の人と結婚しましたし連絡もなかった。だから正人の誕生日も知らないし、一度も会いに来たことないので全くの他人です」
日向子はスマホの写真を見せる。
ケーキを囲んだ聡志と日向子と正人は、まるで本物の家族のようだ。
この写真を撮った 半年前、聡志には計画を知られてしまった。日向子が桜を利用して芽衣と雄太の現状を熱心に調べていたことを不自然に思われたためだ。一時は聡志の目の前から去ろうとしたが聡志からプロポーズされた。
全て背負うから一緒にいてほしいと。
聡志さんは血の繋がった家族を裏切った。真っ赤な嘘の婚姻届ではなく、真実を闇に葬る漆黒の婚姻届を書いてくれた。
雄太が席を立つ。そのままトイレで倒れたとスタッフから連絡が入る。芽衣は今日の急な予定変更のせいで無理さたからだ、と騒ぎ立て席を立った。
私達はそのまま 和やかに食事を続けた。
日向子がトイレに行くと、待ち構えたように芽衣がいた。広めの個室に連れ込まれて、扉が閉まるなり鍵をかけられ肩を押さえつけられる。
芽衣は怒りで顔が硬直し、今にも殴りかかってきそうだが日向子はすぐにその手を払いのける。
「汚れた手で触らないで」
「あんたどういうつもり?いつからあたしの家族に付きまとってた?」
「偶然だと思います。愛した人があなたのお兄さんだったとは驚きです」
「私とお兄ちゃんは兄妹なのよ?あんた 誰の子連れてんのよ?普通に考えたら結婚できるわけないでしょうが!」
「なぜです?正人とさくらちゃんが兄妹だから?」
「それ以上言うな。捨てられたこと根に持って復讐 気取り?狂ってる」
「私は正常ですよ。正人は私の戸籍に入っています。認知もされていないので父親の席は空欄です。そもそも結婚していないので、私と雄太さんは戸籍上、赤の他人です」
「お母さんを騙すなんて。すぐにバラしてやる」
「どうぞ。籍はもう入れましたから」
「どうかしてる。勝手すぎる!」
「お義母さんの提案です。正人の小学校の手続きがあるから 夫婦の方がいいだろうと配慮してくれました。今日の朝、ここに来る前に婚姻届を出しました。聡志さんと私はすでに夫婦です」
「目の前から消えろ!今すぐ離婚しなさいよ!!」
「お義母さんに言われたらすぐに離婚しますが、芽衣さんの言うことは聞けません。人の心配してる暇ありますか?
あなたの夫、隠し子がいますよ?
お義母さんは雄太さんに桜ちゃん以外の子どもがいると ご存知ですか?
DNA 鑑定してもいいですよ?」
「ありえない……」
「お母さんは曲がったことが嫌いな性格です。私の身の上に たいそう同情してくれました。結婚前に愛した女と生まれたばかりの子どもを捨てたクズを許してくれるでしょうか。
もちろん 芽衣さんは全てを知っていたのに黙っていたから 共犯です。
もう順番とかルールとか関係ないんですよ。
実の息子と娘 、お母さんがどちらを選ぶか勝負しましょう」
日向子は、芽衣から目を逸らさず、笑みを浮かべる。
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