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芽衣が 恐怖を感じたのか、金切り声で叫ぶ。
「消えて!疫病神 。早く消えてよ!」
「私はあいこでいいです。私も離婚。芽衣さんも離婚。桜ちゃんはかわいそうですね。あんなにお父さん好きなのに二度と会えなくなるかもなんて。
それとも もう少し大きくなったら伝えましょうか?
実は 音声が残ってるんです。私とあなたの9月9日の内容です」
日向子はスマホを再生する。正人を産んだ日の、芽衣との病院での音声を聞かせた。生々しい会話が狭いトイレの個室に響く。
日向子は、わざと大きなため息をつく。
「お母さんが人の彼氏を略奪して結婚。
勝ち誇って相手に謝るどころか、生まれたばかりの子どもの頭が悪いと決めつける……
やっぱり中学生になるまで真実を伝えるの、待ちます?現実が厳しすぎますよね。
優しいおっとりした桜ちゃんが人間不信になってしまいます」
「桜に近づいたら殺す!」
「あら。私と桜ちゃん 結構 仲良し なんです。芽衣さん毎週のように土曜日、実家に桜ちゃん預けてましたよね。
あれ 私がほとんど 面倒見てるんです。
お義母さんだって忙しいので。いつも正人と一緒にいるって知ってました?」
「は……?」
外からスタッフの声が聞こえる。
呆然とする 芽衣に日向子はとぼけて声をかける。
「芽衣さん 呼ばれてますよ。夫に早く事情を説明してあげて下さい。妻 なんだから」
血走った芽衣の目を、美しいと感じた。
真っ赤な血は新鮮な方がいい。
日向子はメイの後ろ姿に
「結婚式でお待ちしています」
と告げて個室から出た。冷たい水で手を洗うと、満ち足りた気分に酔いしれた。
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