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エイプリルフール
4月1日、聡志と日向子は結婚式を挙げた。市内で有名な人気の結婚式場を、義理母の力で予約できた。ウェルカムボードや美しい花で飾られた会場はとても華やかだ。
日向子は控え室で純白のウェディングドレスに身を包む。
正面からは胸元がレースで隠れた清楚な出で立ちに見えるが、背中を大胆に開けた、後ろになびく長いベールのデザインが気に入った。
ベールガールはさくらにお願いしていた。花嫁が入場する際に、長いベールを後ろから持って、一緒に入場する小さな女の子の役だ。
「さくらやりたい!」
笑顔を見せて引き受けてくれた姿は、結婚式に憧れる無邪気な女の子そのものだ。
もちろん芽衣達夫婦は結婚式に欠席する、と連絡が来たが桜が泣き叫び、
結婚式に行かないんだったら幼稚園にも習い事にも行かないと駄々をこねたそうだ。
渋々芽衣が出席すると式の直前で連絡が来た。雄太は引き続き欠席予定だったが、今度は恵子の機嫌が悪くなった。
仕事関係の人が多く出席する中で、義理の弟が出席しないと仲が悪いのかと噂されると説得された。
「義兄を祝う気がないのなら、いっそ 独立してちょうだい。」
と言われ、雄太は自分の立場を自覚したようだ。聡志を支えなければ追い出される。
控室に恵子が着物姿でやってきた。
結婚が決まってからというもの恵子は上機嫌だった。一度は出て行った実の息子が、考え直し事業を継いでくれるのは母親にとって、とても嬉しいと話す。
日向子の手を強く握り、涙ぐむ。
「聡志の離婚の時ね、子どもができないのは欠陥品だと言われているみたいで、
とてもつらかったの。
結婚も無理じゃないかと思ってたけど、 こんなにいい人に出会って……」
義理母が言葉に詰まり涙する。心からの本音を聞くと、日向子も胸が締め付けられる。嬉しさからではなく、罪悪感からだ。
お義母さん、
私はいい人なんかじゃありません。
人の心を捨てたんです。
「聡志さんは私を救ってくれました。
どうか、顔をあげてください」
そう。子どもができるかどうかで、人間性に欠陥があるように判断されてはたまらない。
世の中には実の子でも平気で捨てる輩が存在するのだから。
「……私をおばあちゃんにしてくれてありがとう」
「そんな。お義母さんには、もう桜ちゃんというお孫さんがいるじゃないですか」
下を向いて、さめざめと泣く恵子を日向子は必死に励ます。
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